悠景は机上で手を組んだ。酒気(しゅき)を感じさせないほど険しい表情を浮かべている。

 王室を非難したことに意味があるのなら、触れ文犯は謀反(むほん)を企てている可能性がある。

 薬材独占という偽の情報で民を煽り、民心という大勢力で玉座を覆すつもりかもしれない。

 思案するように視線を落とし、朔弦は告げる。

「薬材不足は獣による畑荒らしが原因だとか。ただ、被害を受けていないはずの山中でも薬草は取れないそうです」

「それは……畑荒らしを知った民たちが、先んじて山中の薬草を採り尽くしたんじゃねぇのか? 薬が不足するのを見込んで」

 悠景の言葉を朔弦は即座に「いいえ」と否定した。真っ当だと思ったが、何がちがうのだろう。

「山中の薬草がなくなったのは、畑を荒らされる前からです」

「前?」

 妙な話である。薬が不足する以前から、既に山中の薬草が消えていたとは。
 こうなることを予期して、などということは不可能だろう。ならば────。

「まさか、故意に?」

 悠景の導き出した結論に、朔弦は首肯(しゅこう)した。

「畑を荒らしたのは獣ではなく、この状況を作り出して触れ文までした犯人でしょう」

 まず山中の薬草を採り尽くし、意図的に畑を荒らし、それから出回っている薬材を片っ端から買い占めた────ということになる。

「……何のためだ? 金儲け?」

 薬材の入手が困難となり、山へ入って薬草を採ることも叶わなくなれば、誰かから買うしかなくなる。

 値を吊り上げても利益が見込めるため、可能性としては十分ある。実際に高騰しているところを見ても、妥当な推測といえるだろう。

「ですが、それであれば触れ文をする必要などないでしょう」

「なら、真の目的はやっぱり王室を(おとし)めることか? しかしなぁ……それで利する奴なんて誰がいる?」

 悠景は腕を組み、椅子の背にもたれる。

 (きゅう)する彼とは異なり、朔弦はここまでの話の流れの中で既に答えを導き出していた。淡々と答える。

「それは名分(めいぶん)に過ぎません。犯人は誰かに罪を着せるつもりなのでしょう」

 確かにそれならば合点がいく────触れ文の内容はでまかせだが、王や太后への冒涜(ぼうとく)として罪を問うには十分である。

 それも、王室が対象なだけに流刑(るけい)などでは済まないだろう。斬首(ざんしゅ)されてもおかしくないほどの重罪だ。

「そうまでして陥れたい相手とは……」