────後方で両開きの扉が小さく開閉し、悠景と朔弦が入ってきた。

 悠景は玉座の煌凌、その下段にいる太后、さらには規則正しい令嬢たちの列の中にいる春蘭をそれぞれ見やる。

「一次は人相だな?」

「……恐らく」

 小声で問われ、朔弦は首肯(しゅこう)する。

「帆珠殿は堅いとして、太后さまは既に残す者を決めているかもしれねぇな」

「ええ、そのはずです。もともとこの妃選びは、蕭帆珠を王妃に据えるため行われる形だけのものですが……最終審査で脱落したふたりは側室に迎えられることになります」

「なるほどな。太后にしてみれば、()を手に入れる好機ってわけか」

 蕭一族以外の蕭派官吏の娘を側室に迎えれば、太后と蕭家の繋がりはいっそう強まる。
 それは、双方に利点があった。
 蕭派官吏たちにとっては、側室の親族という立場になれば権威が増すことは間違いなく、願ってもみないことだろう。

 また、太后にはもうひとつの利がある。
 後宮を掌握(しょうあく)する彼女が蕭派の娘を側室にしておけば、いざというとき盾に取ることができる。

 そういった側面からしても、太后は否が応でも春蘭を脱落させにかかるであろう。
 いかに器量がよいとしても、敵対する鳳家の娘などさっさと潰したいに決まっている。

「止められるのは陛下だけか」

「陛下と────春蘭次第でしょう」

 王とて煌凌にも限界があるため、春蘭が誰の目にも明らかな結果を残せばよい。
 何人(なんぴと)も文句をつけられないほどの好結果であれば、この結末の決まりきった妃選びを覆せるかもしれない。

「だが、少なくとも人相なんて努力でどうこうできるもんじゃねぇだろ? 生まれ持った運命に左右されると聞く」

「……そうでしょうか」

 朔弦の返答に悠景は眉を寄せた。彼は構わず淡々と続ける。

「恐らく、太后は人相を見る巫女を買収していることでしょう」

 国一番の神力を有する占星院の長・国巫(こくふ)は堅物だと有名であるためにその限りではないが、ほかの巫女は既に取り込まれていてもおかしくない。

 公平性の欠片もないが、しかし、これはもともとそういう戦いなのだ。
 緻密(ちみつ)な陰謀が張り巡らされている。

「なに……!? じゃあ、春蘭殿は不当に低く評価されるってことか」

「その可能性が高いです。正々堂々挑んでは、到底勝ち目などありません」