────誰ともつるむことなく、指定された位置へ既についている令嬢が春蘭のほかにもうひとりいた。
水縹色の上品な衣装をまとい、結い上げた髪に瑠璃の飾りをつけた娘。
ふと、彼女がわずかに振り返る。
(あ……)
見知った顔であった。櫂秦の姉であり、春蘭の命の恩人でもある芳雪だ。
目が合うと、柔らかく微笑みかけられる。
『妃選びでまた会いましょう』
ふた月前、そう言い交わして別れたきりであった彼女に、同じように小さく笑い返した。
やはりと言うべきか、楚家も書類審査を通過し、第一次審査へと進むようだ。
「国王陛下のお成り」
不意に内官のそんな声が殿内に響いた。
令嬢たちは慌てて自分の立ち位置につき、畏まるべく小さく頭を下げる。春蘭も顔を伏せた。
泰明殿は水を打ったように静まり返る。
先ほどまでのざわめきが嘘のように、鋭い緊張感がその場に走った。
中央に敷かれた通路を王と太后、その従者たちが通っていくのを、春蘭は視界の端に捉えた。
太后は数段の階段を上がった席、王はそのさらに上にある玉座へとそれぞれ腰を下ろす。
それを確認した女官が、ふたりの前に御簾を下ろした。
「みな、顔を上げよ」
厳かに太后が告げる。
候補者たちはそろりと顔をもたげ、御簾越しにふたりの王室を見上げた。
煌凌は緊張しながら春蘭を探した。
その姿はすぐに見つけられたものの、どうやら彼女の方はこちらを直視してはいないようで、御簾を挟んでも目は合わなかった。
ほっとしたような寂しいような気になる。
「さすがは美しい者揃いだな。まるで百花が繚乱しているようだ」
猫撫で声で告げた太后は、全員を見回してから帆珠に目を留めた。
その視線に気づき、満足気に微笑み返した帆珠にそっと小さく頷く。
「いまこの場には、国中から選び抜かれた優秀で美しい令嬢が三十名いる。今日の一次審査で、ここから六名に絞るつもりだ。二次審査ではさらに三名に絞り、最終審査でついに王妃となる者が決まる」
太后の言葉を聞き、令嬢たちはざわめき出す。
春蘭は不安と緊張を吐き出すように、深く呼吸をした。
「審査は妾と……主上」
その声に不服な色が混ざったことに煌凌は気がついたが、何も言わずに黙っておく。
太后はさらに続けた。
「それから、占星院の巫女たちで行う」