「本当に?」
思いがけない情報に触れ、驚いてつい身を乗り出す。
煌凌は一介の兵だが、よほど高貴な後見のいる良家の子息なのかもしれない。
実際、羽林軍内での地位は低そうなのに、視察と称して職務を中断し、私服や砕けた格好でふらふらできるほどの身分であることは間違いなさそうだ。
なぜ、わざわざ下級の兵士になったのかは謎であるが。
「ほ、本当だ。わたしは……王子さまのご学友だったのだ」
さらに驚くべき事実が明かされ、春蘭は「えっ!?」と瞠目した。
“王子”といえば、今上陛下を指す。
まさか、彼の後見は王なのだろうか。いや、そんなまさか。
ひとり、かぶりを振った春蘭は気を取り直して尋ねる。
「ねぇ、それなら教えてくれない? あなたから見た王さまってどんな方?」
煌凌は「む……」と難儀そうに眉を寄せる。何とも答えづらい問いかけだ。
「王は……思慮深い方だ。本来は強くて勇ましいが、いまはその爪を隠しているゆえに周りからは弱く見えるだけで。善政を施す手腕もあるし、なるべくして王になった方、だ……」
何となく弱々しい言い方になってしまった。
半ば理想を語っただけであるため、途中で気が引けたのである。
じと、と春蘭は疑い深い眼差しを向けた。
それを受け、余計に尻込みしてしまう。
「な、何だ。信じておらぬのか」
「だって、朔弦さまに聞いたのとまるっきり反対なんだもの」
「なに? 謝将軍は何と……?」
そう聞き返された春蘭は煌凌にてのひらを向ける。
「弱い。情けない。政もしない。惰弱でやる気がない。臣下に怯えて何もできない。太子さまがいなくなったから血筋だけで即位した、名ばかりの王────ですって」
指を折りながら、呪文でも唱えるかのように怒涛の(朔弦からの)言葉の刃を突きつける。
覚えていたつもりはなかったのだが、あまりに容赦のない評価がひどく印象的で、自然と記憶してしまっていたようだ。
これでもかというほど、煌凌の胸に深々と突き刺さる。
(そ、そこまでのことを思われていたのか……)
嫌われているであろうことは重々承知の上だったが、それほどまでに貶されていたとは知らなかった。
王に対する期待も敬愛も欠片ほどもなさそうだ。
この世の終わりのような顔で愕然と打ちひしがれる煌凌を見て、春蘭は首を傾げる。
「何であなたが落ち込んでるの?」
「……陛下の悲しみはわたしの悲しみなのだ……」