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「朔弦さまに話したわ。ぜんぶ」

 夜が明け、春蘭の部屋に(つど)った紫苑と櫂秦に告げた。
 櫂秦はわずかに瞠目(どうもく)したが、一方で紫苑は落ち着いていた。
 こうなるよう仕向けたのは、ほかならぬ自分自身であったからだ。

「……そっか。マジで話したんだ」

 抱える秘密を話せない理由は、朔弦が公人(こうじん)だからだと口走っていたことを思い出し、何となく苦いような気持ちになる。
 それゆえに犯罪絡みなのかと推測したわけだが、あのあと春蘭は言った。

『いまは話せない』

 頑として口を噤んできたが、とうとう朔弦には掴まれてしまったということなのだろうか。

 ────実のところ櫂秦は、夢幻を知らないわけではなかった。
 光祥を通じ、面識はなくとも存在は知っている。
 当初、朔弦が探りにきた折の話をもとにたどり着いたが、春蘭の秘密には彼が関わっているのではないかと直感的に推測している。

「朔弦さまは信じてくれた」

 それを聞き、安堵した紫苑は小さく息つく。
 朔弦であればその判断をしてくれる、と踏んだのは間違いではなかったようだ。

「朔弦さまが味方なら心強いばかりですね、お嬢さま。……ところで、今日は別邸に行かれる日では?」

「あ、いけない。そうだった。もう行かなきゃ!」

 白色の被衣(かつぎ)を引っ掴み、部屋を飛び出していく春蘭のあとを紫苑も追った。
 朔弦のもとへ送り出すのにも、もはや気が重くなることはない。



 春蘭を見送って門を閉めると、ふと庭院(ていいん)へ下りてきていた櫂秦に声をかけられる。

「なーんか怪しいな、おまえ」

 何か、という割に露骨(ろこつ)懐疑(かいぎ)が窺える。
 春蘭の話を早々に打ち切ったこと含め、彼の態度は不自然だった。
 通常であればその過保護さをもって、必要以上の心配をしてもおかしくなかったはずだ。

「朔弦に色々ばれたのって、まさかおまえの仕業?」

 嘘が下手なりにあれほど徹底していた春蘭が、かくも容易(たやす)く尻尾を掴まれるとは思えなかった。
 さらには紫苑と朔弦が何やら密かに話していたことも知っているし、先ほども驚きを見せなかったのはやはり怪しい。

「…………」

 彼は何も言わなかったが、それが肯定を意味することは明白であった。
 まさかとは思ったが、本当にその“まさか”だったわけだ。