「何もかもみなのお陰だ。余ひとりでは到底成し得なかった。……心より感謝している」

 王が文官たちを称え、素直な謝意を述べると、ぴたりと喧騒(けんそう)が止んだ。

 正直なところ、煌凌自身は何もしていない。
 文官たちに呼びかけてくれた元明、それに応じて示威行動を起こしてくれた文官たち。
 そして何より策を講じ、さらには太后と直接取り引きをしてくれた朔弦。

 彼らの協力なしでは、煌凌はいまもただ陽龍殿で手をこまねいていることしかできなかった。

「ありがとう」

 煌凌は頭を下げた。何の躊躇いもなく。
 文官たちは“王”のそんな行動に戸惑ったものの、感嘆した。
 “底”を知る無力な王────であるからこその行動かもしれない。

 ────ひとり、またひとりと、膝を折って跪拝(きはい)する。
 自然と敬愛の念が湧き、示し合わせずともそれぞれが気づけばそうしていた。
 こんな王も悪くないのではないか。
 こんな王がいてもいいのではないか。
 彼らは初めて、そう思えたのだった。



 陽龍殿への道すがら、朔弦とふたりになった煌凌は改めてその名を呼ぶ。

「心から礼を言う。本当にありがとう」

 特に彼には何度礼を言っても足りないだろう。
 ひとまず第一関門を突破できたことに安堵したが、朔弦の方は普段と変わらず謹厳(きんげん)な面持ちを崩さない。

「して、“あの件”とはいったい何なのだ? 余は初耳だったが……」

「わたしも詳細は存じ上げません。真相を知る者は、もはやこの世にふたりしかおりませんから」

 それが太后自身と容燕を指しているということには、煌凌もすぐに思い至った。
 彼らが決裂でもしない限り、事の真相は永遠に闇の中だ。

「陛下、油断なさらぬよう。審査権を得たのは第一歩に過ぎません。あの者が王妃になると決まったわけではないのです。太后さまや蕭家はあらゆる手を尽くし、妨害してくるでしょう」

 やっと同じ土俵に立てたに過ぎない。
 王が審査権を得ても、妃選びそれ自体はやはり後宮主導────つまり太后が牛耳る。

「そうだな。……だが、春蘭には乗り越えてもらわねば。余も可能な限り、助けるつもりだが」

 審査が公平であれば、選ばれるか否かは春蘭の実力次第となる。
 そればかりは、煌凌も祈るほかになかった。