煌凌はどきどきしながら、黙って成り行きを見守った。
話の半分も真に理解できていないが、幼少の頃から研ぎ澄まされた感覚のお陰で、朔弦が押していることは肌で感じ取っていた。確かな手応えがある。
もしかしたら本当に、実現できるかもしれない。
「要求を受け入れてくだされば“あの件”について今後一切口外しません。墓場まで持っていくと約束しましょう。太后さまがまだそこに座っていたいのでしたら、この条件を飲むしかありません」
語り口は丁寧ながら、有無を言わせない威圧感が含まれている。
審査権分与というのが王側の“得”、他言無用の極秘事項を守り断罪を免れるというのが太后側の“得”────。
確かに、筋の通った利害関係だった。
どのみち、文官たちの示威行動を黙殺するという選択肢も取れない。
そんなことをすれば、蕭家との癒着などというよからぬ噂が立つことは避けられない。
無下にされた鳳派たちは、それを足がかりに太后を追い落としにかかるかもしれない。
────考えを巡らせた太后は深々と息をつき、伏せた顔を上げた。
観念したような態度である。
「……分かった。そなたの言う通りにする」
いくら不本意であろうと、頷くほかになかった。
もし断れば、朔弦は王命のもと“あの件”を追及し、太后を廃するだろう。
この場に王が立ち会っているということは、そういう脅しの意味もある。
また、ほかならぬ王を証人に立てることで、太后に二言を許さないというわけだ。
王に審査権を分け与えること────それをいま、王の面前で宣言した形になる。
「……!」
煌凌は喜びを表に出さないよう、必死で平静を装いながらも思わず朔弦を見た。
目が合うと、こくりと頷き返される。
太后は悟った。
王が朔弦を味方につけたわけではない。朔弦の方が王を丸め込んだのだ。
少なくともこの場において、主導権を握っているのは王ではない。
「……ただし、己の言葉は守ってもらうぞ。今後どのような形であれ“あの件”の追及は受けぬ」
庭院へ出るなり、文官たちに取り囲まれる。
王が殿内へ入ってから、彼らは固唾を飲んで待っていたことだろう。
「陛下」
朔弦が静かに促すと、煌凌はひとりひとりと目を合わせるように文官たちを見やったあと、強く頷いてみせた。
わっとその場が湧く。喜びを顕に、拳を天に突き上げる者もいた。
「ついに報われましたな……!」
「おめでとうございます、主上」