そこまで考え、唐突に別の情報が脳裏を掠めた。
それがいまの話と組み合わさり、ひとつの可能性へとたどり着く。
「丹紅山の麓……。丹紅山……?」
「えっ、何すか?」
息をのんだ莞永は、思案しながら思わず呟いた。
白銀の髪をそなえた見目麗しい例の男は、春蘭と一緒だったという。
さらには鳳家荘園のひとつである、丹紅山の麓にある堂との関連が示唆されていた。
「まさか、お嬢さまが……」
彼が鳳家と無関係とは思えない。
不意に“三年前”のことが思い出された莞永は、大慌てで勢いよく立ち上がった。
────いままで、どうして失念していたのだろう。
「うわ、びっくりした。どうしたんすか!」
「ごめん、ありがとう。旺靖のお陰でひらめいたよ。ちょっと行ってくる!」
「え……どこに!?」
◇
福寿殿の前には何十の臣たちが連なり、その庭院を占拠していた。
「どうか賢明なご判断を!」
「陛下に審査権を分与なさいませ」
「我らの意を汲んでください、太后さま!」
いずれも鳳派に属する者たちだが、彼らはこぞって平伏し、昼夜問わず口を揃えて太后に訴え続けていた。
雨に打たれようと風に吹かれようと、腰を上げることなく示威を続けるこの状況が、かれこれ三日になろうかというところである。
「小賢しい……」
当然、殿内の太后にも彼らの声は届いている。
しかし、いくら耳障りでも「黙れ」と一蹴できないことが腹立たしく、手にしていた半紙をぐしゃりと握り潰した。
外で座り込みをしている文官たちの名と、この場にはいないが彼らを焚きつけた張本人である鳳元明の署名がなされた連判状である。
ほかならぬ元明が出張ってきているということを含め、黙殺では済ませなくなっていた。
苛立ちを顕にする太后を一瞥し、容燕は鬱々と髭を撫でる。
「厄介なことになりましたな」
これまで頑なに目立つことを避けてきた元明が、ここに来て表立った行動を起こしたことが、容燕には意外だった。
しかし、そうせざるを得ない状況でも実際にあった。
妃選びに家門が関わる以上、元明が傍観していれば、鳳家は終焉を迎えていただろう。それは蕭家による掌握を意味するのだから。
「取るに足らぬ」
太后はあくまで一笑に付した。腹は立つが、焦る段階ではない。
「どうせ、鳳派の力なき反発だ。少し脅せばすぐにおさまる。長くは続くまい」
結束の強い蕭派には、太后という後ろ盾がいる。
一方の鳳派は頭数が少なく、くだんの件には無派閥の文官をも引き込もうとしているようだが、所詮は烏合の衆に過ぎない。
この示威行動も、強固な信念のもと行っているわけではないだろう。
この場に親衛隊でも呼びつければ、さすがに恐れをなして逃げ出すはずだ。