幼い頃からそばにいるのに加え歳が同じということもあり、彼女とは主従関係の垣根を越え、親友のような存在であった。互いに気心も知れている。
だからこそ、あえて尋ねた。
ついてきて、そばにいて、と言うのは簡単だが、それは春蘭のわがままでしかない。
紛れもない芙蓉の意思を尊重しようと決めていた。
「お供します。何があっても、変わらずお嬢さまにお仕えしたいです」
そう答えるまでに一切の間もなかった。たたえられた笑顔にほっと安心してしまう。
────いまから七年前、出会った当初も芙蓉は同じことを言った。
しかし、あの頃の彼女はいまのような笑顔や幸福など露ほども知らなかった。
ただ不意に射し込んだ一筋の“光”にしがみつくように、ひたすら必死で懇願していた。
「……そう言ってくれてよかった」
春蘭は頬を綻ばせる。
ともに過ごしてきた長い歳月があるだけで、心細い後宮でも心の支えとなってくれるだろう。
先行きは決して暗くない。ひとりではないから。
杯に注がれた茶を飲み干し、春蘭は凜然と顔を上げた。
「負けないわ、わたし。お茶会も妃選びも」
◇
「……陛下」
蒼龍殿へ参殿した朔弦の表情や声色はいつにも増して冷ややかだった。鋭い双眸に自然と煌凌の背筋が伸びる。
相当に機嫌を損ねているらしく、それを隠そうともしていないため、いまばかりは彼の感情を読み取ることができた。
「よほど、わたしが信用できなかったようですね」
「ち、ちがう。ちがうのだ。それは余が軽率だった。怖くて、焦ってしまった。……すまぬ」
下手に弁解を並べ立ててからすぐに後悔した。逆効果でしかないだろう。
煌凌は肩をすくめる。無言の彼はかなりの圧があり、言い訳がましい王を言葉を用いることなく責めているように思えた。
「……叔父は陛下に協力する意を示しています」
「では、そなたも────」
「ええ、協力します。そうするほかないですから」
「…………」
ひどく刺々しい。底冷えするような静かな怒りを感じる。
それでも直接責めはしない。王に何の期待もしていないからだ。
分かっていた。分かっていながら、煌凌は率直な気持ちを口にした。
「礼を言う。本当にありがとう……」