また勝手なことを、とつい思ったものの、実際のところそれは必要な役目だろう。
春蘭はまだ情勢や勢力図に疎い。覚悟を決め、勉学に励み始めたとはいえ、それとはまた別の知識を要する。
いまの状態で宮中へ放り込むのはあまりに無防備で危険と言えた。
しかし、朔弦は拭いきれない感情の尖りを体現するかのごとくゆっくりと瞬いた。悠景を見据える。
「……叔父上、どうするつもりですか?」
指南役の話は別にいいとして、それ以前に問題がある。
彼女の後宮入りに協力するとなると、必然的に王とも手を携えることになるのだ。
そのための第一歩が“春蘭を王妃の座に就けること”であるならば、まずは王が妃選びに関わる術を練らなければならない。
悠景は白けたように手を下ろした。朔弦の言わんとすることを悟ったらしい。
しかし、彼は構わず続ける。
「太后は陛下に審査権を渡す気などさらさらないでしょう。しかし陛下が審査に加わらねば、連中はあらゆる手を尽くして蕭帆珠を王妃にせんと動くはずです」
「……ああ」
「阻止できるのは陛下しかいません。いかにして審査権を得るのですか」
真剣そのものの態度で射るほど鋭い眼差しを向ける朔弦に対し、悠景は暢気な調子であった。悠々と両手を後ろで組む。
「それを考えるのがおまえの役目だろ」
投げやりとも言えるその態度は、予想していなかったわけでもない。
これまでもそうだった。思考を巡らせ策を講じるのは常に朔弦の役目であり、課せられた使命でもある。
春蘭に協力することで恩に報いた、という事実を得るだけで悠景としては満足なのだろう。
……過去といましか見ていない。肝心なのはこれからだというのに。
義理堅いのは確かだが、いつも軽率に突っ走りすぎなのだ。敢然といえば聞こえはいいが、同時に浅慮であると言わざるを得ない。
毎度毎度、彼が何かを仕出かしたのち、禍根を絶つため奔走するのは朔弦である。どうやら今回も例外ではなさそうだった。
母屋の方へ入っていった悠景を別邸に残し、春蘭と朔弦は帰途につく。
賑わう大路を歩きつつ、被衣を被った春蘭は彼の方を窺った。
「そういえば、謝大将軍の言ってた“ある方”ってどなたですか?」