────悠景とともに客間で円卓を囲んで座り、彼らの結論を聞いた春蘭は目を見張った。

「本当ですか……?」

「ああ、俺たちにできることは何だってする。春蘭殿に忠義を誓おう」

 決然たる言葉に心が震え、瞳が揺れる。はっと息をのむように頬を綻ばせると、勢いよく頭を下げた。

「ありがとうございます、大将軍……!」

「おいおい、(おもて)を上げてくれ。改まられるといづらいじゃねぇか」

 悠景は豪快に笑ってみせる。

「まあ……何でもするっつったが、朔弦を()き伏せたいまとなっては、俺の役目はもうねぇに等しいな」

「朔弦さまを?」

「何だかんだあいつは素直な孝行者(こうこうもの)だからな、俺の言うことはちゃんと聞くんだ。ただ、今回のことは終始不服そうだった。悪いが、嫌味のひとつくらいだったら大目に見てやってくれねぇか?」

「そんな、とんでもないです。朔弦さまの言葉はいつも正しいですから。……ありがたいです」

 噛み締めるように言う。それを聞いた悠景は片方の口角を持ち上げ笑った。

「……あいつはな、もともと考えすぎなとこがあるんだ。慎重も度が過ぎると気苦労が絶えねぇってもんだよ」

 そうは言っても、ただ物事に過敏になっているとか、気にしなくてもいいことを気にしすぎているとか、そういうわけでは決してなかった。
 その点が春蘭にとってある意味で脅威と言える。

『わたしの目を疑うのか』

 うまく流れたか忘れてくれていればいいものの、あの朔弦が一度覚えた不信感をそう易々と手放すとは思えなかった。

 しかし────その不信感の正体が、紫苑にさえ隠し通しているその最大の“秘密”が、いつか暴かれてしまったら。
 そんな不安や恐れのせいで、彼に対して苦手意識を覚えてしまう。

「だけどな、春蘭殿。あいつは間違いなく春蘭殿の助けになる。俺が言うのも何だが、あいつは賢いんだ。その頭脳を借りなきゃ、俺もいまここにはいなかったと思う」

 朔弦は言わば、悠景の“影”のような存在であった。

 あの聡明怜悧(そうめいれいり)さをもってすれば、官吏として(まつりごと)に携わる道も選べたはずだ。
 実績、手腕(しゅわん)ともに大官(たいかん)たるにふさわしく、朝廷随一(ずいいち)の若き能吏(のうり)として頭角(とうかく)を現していたにちがいない。

 しかし、そうはしなかった。
 武官として悠景に仕えると決めたのは、ほかでもない朔弦自身だ。自ら悠景の影となることを選んだ。