しかしそれ以上に評価できる点は、彼女の打たれ強さである。
 どれほど冷遇(れいぐう)しようと、手加減なしに厳しく接しようと、頑固にも食らいついて諦めようとしない。

 鈍感なわけでも無理に平然としているわけでもなく、確固たる意思があるゆえのしなやかな心持ちや姿勢と言えた。

 ……ふ、と悠景が笑みをこぼす。

「なんだ、珍しいな。おまえがそこまで言うなんて」

「褒めてはいませんよ。この程度は“前提”です。こうでなくては」

「あー、分かった分かった。……それで? 何のために三日に分けたんだよ? 効率悪ぃったらねぇだろ」

「本人に熟考させるためです。衝動的に決めても物事はうまく運びません。寝て覚めて“気が変わった”と言われても困りますから」

悠長(ゆうちょう)なもんだな。陛下直々(じきじき)に言われた以上、協力は決定事項だろ」

「叔父上、安直に決めてはなりません。義理人情を重んじてどうなったかお忘れですか? ……どうか、こたびは慎重なご判断を」

 もともと太后の側についていたのは、彼女への恩に報いるためであった。

 先王の時代、悠景を左羽林軍大将軍という地位に取り立てるよう進言し、謝家の家格を劇的に押し上げたのがほかならぬ彼女である。

 しかし、義理堅い悠景が報恩するべく命を()し、矜恃(きょうじ)を捨て、ひとえに太后のために奔走した結果が()()だった。ことごとくひどい目に遭わされたものだ。
 とはいえ、悠景は別なところにその原因を見出しているらしかった。

「……おまえこそ、慎重に慎重を重ねた結果があれだったんじゃねぇのか。時には思いきりも必要だぞ。何をそんなに懸念してんだ?」

 ────実際にこれまで、ここぞというときに踏みきる判断をしてきたのは悠景である。

 英賢(えいけん)な朔弦は何事も完璧にそつなくこなすが、唯一不足しているものは、勝負をかける勇気だと悠景は思っている。

 それでも普段は果断(かだん)に富んでいる割に、ことこの件に関してはとにかく優柔不断と言わざるを得なかった。

「春蘭殿が王妃に選ばれなかったときのことが心配か?」

 それも無論あった。それはすなわち蕭帆珠がその座に就くことを意味する。

 そうなれば、春蘭に肩入れした悠景と朔弦は当然、蕭家から相応の報復を受けることになるだろう。