「ひとりで話進めるなんて水臭ぇじゃねぇか。春蘭殿は恩人だ。俺も協力するぜ」

 まったくもって予想通りの反応であった。
 こうなると思ったのだ。だから叔父には黙っていたのに。
 浅はかで甘ったれな王のせいですべて台なしである。

「……少し、よろしいですか」

 淡々としながらもいまばかりは不機嫌さを隠すことなく、朔弦は悠景に歩み寄った。
 春蘭を客間で待たせておき、連れ立って書斎へ向かう────。



「何をお聞きになったのか存じませんが、わたしはまだあの者に協力すると決めたわけではありません」

「あ? 拒む理由なんてねぇじゃねぇか。……道は、ふたつにひとつだろ」

 堂々と腕を組んだ悠景は、それでいて決然と静かな調子で続ける。

「中立を保ってどうなるんだよ? 傍観してたってまんまと利用されるだけだぞ。安全と同義にはなり得ねぇ」

「それは────」

「蕭家相手となりゃ、そもそも俺たちだけでは手も足も出ねぇんだ。鳳家と協力してどうにかできるなら迷う余地なんてねぇだろ?」

 一理あるが、すぐには頷けない。
 蕭家や太后からの裏切りという痛手(いたで)を忘れられるわけがなかった。
 謝家の命運が懸かっている。慎重を期すべきなのに、勢いで決めきるなど得策ではないだろう。

「まあ、春蘭殿なら実力でのし上がれるだろ。ほかならぬ陛下が後ろ盾なんだしな」

「……一筋縄ではいかないでしょう。蕭帆珠も背後には太后さまがついています。妃選びは後宮主導ですから、そういう意味ではこちらがかなり不利です」

 まったく、と悠景は息をつく。

「春蘭殿の力量を疑うのか? 途方に暮れてた俺たちを檻から出してくれたのは、ほかでもない彼女なんだぞ」

「…………」

「この三日間、おまえがその目で見てきたはずだろ?」

「……ええ」

「で、実際どうなんだ?」

「やはり鳳家の生まれですから、令嬢としての素養は申し分ありません。勉学も、一を教えれば十を吸収する。見込みは十分です」

 名門家に恥じない深窓(しんそう)の令嬢ぶりで、礼儀作法に関しては非の打ちどころがないほど完璧であった。
 指先の曲げ伸ばしや視線の運び方に至るまで、文句のつけようもないほど優婉(ゆうえん)な身のこなし。

 立てば芍薬(しゃくやく)、座れば牡丹(ぼたん)、歩く姿は百合の花────まさしくそんなたとえにふさわしい。口にこそしないが、朔弦は実のところ感心していた。