「そう、なのですか。あの、それで……これから何を?」

 なぜ唐突にそんなことが語られたのか、春蘭は意図を測りかねていた。

 朔弦は隣を一瞥(いちべつ)する。
 不安気にあれこれと尋ねてくるところを見ると、信用していないのはお互いさまであるようだ。
 ただ、春蘭に関しては警戒していると言った方が正しい。

「そう気を張るな。着いたら話す」

「…………」

 (なだ)めるような言葉だが、冷ややかな声色とそぐわず、かえって身を硬くしてしまう。

 とはいえ、実際に今日のところは何もその内情を暴こうというわけではなかった。不信感が拭えないのは確かだが。

 事を焦って関係に亀裂(きれつ)でも入ろうものなら、この先取れる選択肢が減ってしまうだろう。時宜(じぎ)に適っていない。

 ────往来を抜け、橋を渡り、大路を曲がる。
 おもむろに朔弦は足を止めた。

「ここ、ですか?」

「ああ」

 鳳邸からさほど遠くないところに位置しているその屋敷は、別邸ということもありそれほどに広大ではなかった。
 彼が自ら開門する。奉公人(ほうこうにん)を含め人の姿はなく、どこか閑散としていた。

 庭院には池も東屋もなく、細い枝を枝垂(しだ)れさせる柳が風に揺れている。
 静謐(せいひつ)で落ち着いた印象の造りだ。

「ここは謝家の人間でもほとんどわたししか出入りしない。遠慮せず(くつろ)いでくれ」

 (おもむき)のある内装は、確かに朔弦の文人としての一面を感じさせるものがあった。
 無駄も華やかさもないのがかえって雅な雰囲気を醸している。

「茶すら出さずすまないが、さっそく本題に入る」

 通された客間で円卓につくと、朔弦が口を開いた。

「今日から三日間、おまえにはここへ通ってもらう」

「えっ!? ど、どういうことでしょうか」

「……おまえは王に嫁ぎたくないのだろう」

 脈絡(みゃくらく)なく展開されていく話についていけない。
 困惑が駆け巡るが、彼が話の歩調を合わせてくれる気配はなかった。諦めて小さく頷く。

「……はい。ですが、それが家のためだということは分かってます」

 昨晩は彼の前で明言することを避けたものの、春蘭の本心などとっくに見透かされていたようだった。
 弱い気持ちさえ看破(かんぱ)された気がして肩身が狭くなる。

「ならば、聞き方を変えよう」

 俯いた顔をそっともたげると、鋭い双眸(そうぼう)に捕まる。

「蕭家を打ち倒したいとは思わないか」

「……!」