従順な(こま)でなくなれば、玉座どころか命すら(おびや)かされるかもしれない。
 容燕が代わりに新たな傀儡(かいらい)を王に据えてしまえば、煌凌はもう用なしである。

 しかし、何もせず傍観(ぼうかん)していても同じことだろう。

 煌凌が動かなければ容燕の思惑通り、そして太后の宣言通り、蕭家直系の娘である帆珠が王の正妃となる。

 計り知れないほど莫大(ばくだい)な権力を手に入れた容燕により、結局のところ煌凌は玉座から引きずり下ろされるはずである。

 同じ結末ならばせめて(あらが)うべきだ。
 この妃選びの主導権を、連中に握らせるわけにはいかない。

 だが、そのためにどうすればよいのだろう。思考は堂々巡りだ。

 身を守るため暗君(あんくん)を演じてきたわけだが、情けなくも実を伴っており、王として持ちうる力は無に等しい。

「……あの、陛下」

 目に見えて困り果てている煌凌に、莞永が控えめに声をかけた。怜悧冷徹(れいりれいてつ)なとある人物を思い浮かべながら。

 策を講じるにあたって、適任と言える“彼”に協力を仰いではどうだろう。



     ◇



 執務室へ飛んできた莞永に()かされ、渋々ながら重い腰を上げた朔弦は蒼龍殿へと向かっていた。
 王に呼ばれたとなれば、不本意でも無視するわけにはいかない。

 しかし、嫌な予感がしていた。

 これまでそうであったように、羽林軍に関する用件ならば長である叔父の悠景を呼ぶはずである。
 それをわざわざ自分ひとりが呼ばれたということは、朔弦への個人的な用ということだろう。

「……本当に何も言っていなかったか」

「は、はい。将軍を呼んでくるよう言われただけなので、わたしは何も知りません!」

 賢明にも莞永は(しら)を切り通した。
 そうでなければ即座に断られるか、不忠(ふちゅう)を承知で回れ右してしまうと思った。

 面倒を覚悟で観念した朔弦が殿へ着到(ちゃくとう)すると、控えていた清羽がすぐさま取り次ぐ。

「陛下、謝将軍が参りました」

「通せ」