再会の約束を反故にしたのは煌凌の方だが、決して本意ではなかった。
あのあと玉座を継いだ彼の王権はあまりに不安定で、いまにも崩れそうなほど揺らいでいた。ちょっとの油断が簡単に死を招くほど。
もとより太子ですらなかった彼を王位に望む者はいなかった。
ただ、ほかに誰もいなかったから────老臣たちが、空いた至高の椅子に幼い彼を据えてやったに過ぎない。
奸計に晒され、思惑に揉まれながら、煌凌はただ生き残る術を模索し続けた。
玉座から転がり落ちないよう、己の感情を、かの少女を劣後させてでも必死で宮に留まるしかなかったのだ。
しかし、そんな過去があったからこそ春蘭に出会えたのかもしれない。
辛酸を嘗めながらもひたすらに堪え、自分を押し殺して連中の利権を守り続けてきた甲斐があった。
宮外へ抜け出す余地を見出せるくらいには、老獪極まる臣たちの目を誤魔化せているのだから。
煌凌は強い眼差しで顔を上げた。
「余は……春蘭を王妃に迎えたい」
王としても煌凌としても、唯一の相手と言える。
幸せになって欲しい、と恐らくは三人が三人とも思った。
たとえ恋情のない、紛いものの婚姻だとしても。
「……しかし、難しいですね」
清羽が憂うように言う。
「はい……。妃選びは後宮が主導するもので、王が関わった前例はありません。大臣たちの反発は免れないでしょう」
「あのようにお怒りでは、後宮を束ねる太后さまの許可も得られるかどうか……」
そんなことは煌凌とて重々承知している。
大臣たちのほとんどは容燕の息のかかった者であるため、王が審査に関与することに対して賛同を得るのは難儀だろう。
後宮の長として妃選びを取り仕切る太后も、蕭家と手を携えたとなれば、王に審査権を分与するとは思えない。
反対する者たちを黙らせるには、相応の理由が必要となる。
(……どうすべきであろう)
静かに目を閉じ、煌凌は考え込んだ。
当然ながら、一筋縄ではいかないだろう。
煌凌が審査への参加を望めば、それは容燕や太后と本格的に対立することを意味する。
そうなればこれまでのように、何だかんだでのらりくらりと逃れることはできなくなる。