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 堂々と突き進んでいく容燕のあとを、蒼白な顔で煌凌はついて歩いた。

 向かう先は地下牢────朝だというのに一切の光も届かず、じめじめと湿気(しけ)っている。
 相変わらず埃っぽく、鼻が曲がるほどの血のにおいが充満していた。

「牢を開けよ」

 容燕が兵に命ずると、引きずり出された男が王の前に(ひざまず)かされる。

「さぁ、改めてそなたに尋ねよう。触れ文に加え、薬材不足など一連の事件を企てたのは誰だ?」

 煌凌は警戒しながら、そう問われた男に視線を向ける。

「そ、それは……」

 身を震わせながら視線を泳がせた男は、窺うように容燕を見やった。
 確かな頷きが返ってくると、その仕草に安堵したように意を決して口を開く。

「……すべて、俺が画策(かくさく)しました」

 あまりに予想外の自白を受け、煌凌は瞠目(どうもく)する。

「何だと……?」

「以前、謝悠景さまの指示だと証言したのは偽りです。本当はぜんぶ俺がひとりでやったことなんです!」

 意のままの証言を得られた容燕は密かに笑い、そっと髭を撫でた。

「何ゆえそのような偽りを申した。何ゆえ……いまになって証言を覆したのだ」

 煌凌は困惑したように男に詰め寄る。
 視線を彷徨わせた彼は、答えになる言葉を必死で探した。容燕の言う通りにした、とは口が裂けても言えない。

「あ、あのときは気が動転して……ほかの誰かに罪をなすり、俺ひとりだけでも助かろうと思い……。し、しかしやはり、それは道義(どうぎ)に反すると思い直したんです」

 その言い分は理解できる。しかし腑に落ちない。
 違和感を覚えた煌凌は(いぶか)しげに眉を寄せる。

(罪を誰かになすりつけたかったとして……何ゆえそれが悠景なのだ)

 ならず者が不意に口にするような名とは思えない。
 煌凌はそろりと顔をもたげ、容燕を見やった。

(まだ繋がっておるのか……?)

 男は自主的に自白をしたわけではないのだろう。
 容燕に雇われた身であるはずなのに、彼の名が出ないことが証拠である。

 悠景の指示だという当初の証言自体は、やはり容燕の命令に従って落としたものだ。
 違和感の正体が見えてくるも、意図を掴みきれないでいた煌凌は、しかし次の言葉で合点がいく。

「お聞きになりましたか、主上。この男こそが()()()の元凶だったのです」

 ────そういうことか、とようやく狙いに気がついた。