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 一夜明けたが、状況は変わらず膠着(こうちゃく)状態にあった。

「陛下! 表に侍中がいらっしゃって……」

 勢いよく扉が開き、清羽が蒼龍殿へと駆け込んできた。真っ青な顔でおろおろと慌てふためいている。

 煌凌の頭に険相(けんそう)(つら)構えをした容燕が浮かんだ。
 大方、昨日の尋問で航季を捕らえる王命を下したことへの怒りがおさまらず乗り込んできたのだろう。

 そう推測したが、どうやらちがっているようだ。
 清羽は身を縮こまらせながら続ける。

「こたびの件を解決しにきた、と────」



 左右に扉を開き、殿の外へ出る。
 屋舎へと続く石階段の下、大門から殿へと伸びる石畳の通路に、堂々たる態度で容燕が立っていた。

「……主上。いますぐ航季を釈放なされ」

 いかめしい相形(そうぎょう)ながら、昨日よりもどことなく余裕が生まれているように見える。

 戸惑いを禁じ得ず、眉を寄せた。
 これについては容燕とて反論できない真っ当な結果であろうに、こちらの方が気後(きおく)れしそうになる。

「そ、それはできぬ。不正授受は航季の指示だったと、院長が自白したではないか」

 煌凌は後ろで手を組み、精一杯胸を張って王の威厳を保とうと試みた。
 しかし容燕はまったく怯まず、さらには意味ありげに口角を持ち上げる。

「聞いて驚かれますな、主上。このわたしが、こたびの件の真犯人を捕らえました」

「真犯人……?」

 いったいどういうことだろう。

 航季が捕らわれたこの時宜(じぎ)に、そんな都合のいいことがあるだろうか。
 そもそも容燕の企てであろうに“真犯人”も何もない。

(もしや────)

 証言を捏造(ねつぞう)し、またしても悠景らを黒幕に仕立て上げるつもりなのではないだろうか。

 既に投獄されている彼らがさらなる罪に問われれば、口実を得た臣下たちが不敬罪だ何だのと騒ぎ立て、ふたりの死刑を求刑する可能性が高い。
 
 蕭派の(おみ)たちは、彼らを排除したいという容燕の意に沿うに決まっているのだから。

「…………」

 不審がる煌凌の心情を察したらしい容燕は、くつくつと低く笑った。

「ついて来なされ。ご覧になれば分かります」