花火大会に妹の付き添いで来ていた私──千夏(ちか)は人混みの中、好きな人の姿を見つけた
彼の名前は佐哉(さなり)くん


付き添いがなければ彼を誘おうと思っていた
だけど誘わなくて結果良かったのかもしれない


だって今、彼の隣には浴衣を着て楽しそうに微笑む奇麗な女の子がいたから


彼女じゃないかもしれないよと頭の中で囁く声がする
これはわたしの願望だ
彼女なんて作らないでほしい私の醜い願い


彼には好きな人がいるという噂は同じ学校に通っている人ならみんなが知ってること
でもそれは告白を断る口実だってことを私は知っている


何でかって言うと彼の親友が私の幼なじみだから
だから私にも話してくれたんだと思う
でもあのとき打ち明けてくれた彼はすごく照れ臭そうにしてたから、口実なんだって言っていることすら口実で、本当に彼には好きな人がいるんだとそこで悟った


裏の裏が本当のことなんだよね
私にはわかるよ、大丈夫
応援してるからね


でもそう心の中ではわかっていてもいざ目の前にしたら処理が追いつけない


「ねぇね?」


立ち止また私服を妹が引っ張る
せっかくお祭りに来たんだもんね
屋台の美味しいものたくさん食べて、打ち上げ花火楽しまなくちゃね


「行こっか」


妹の手をしっかりと握りなおして人ごみの中を歩く
りんご飴にチョコバナナに光るジュース
焼きそばとタコ焼きと唐揚げ
金魚すくいからヨーヨー釣り、射的まで


妹の食べたいものしたいことに付き合う
食べ物はキッチンカーに戻ってから食べるという約束になっている
ジュースだけはショルダー掛けできるものだったから持ちたいと言って聞かなかった妹が嬉しそうに抱えている


時々ちゅーと飲んではニコニコ笑う妹が可愛い
シスコンだよね我ながら思うけど気にしない


「車、戻ろっか」


人が動き始めたから花火のうち上がる時間なんだとわかる
両親の屋台のもとまで急ぐ
いい場所とれたのよと母が地図に印をつけていた場所


そこは花火を打ち上げるときに人が一番多くなる場所
屋台の配置希望も毎年その場所が多いと言われている場所
抽選に当たったのよ勝ち取ったわ
とガッツポーズをしていた


その抽選結果を見て父は
祭り当日は戻ってきてから花火を見なさい
特別に車の屋根に登ることを許可する
とまで言ってくれたくらい


人ごみの中、妹の手を離してしまったら危ない
母の運に感謝した


「ねぇね!ちゅちゅ!」

「こら、見ないの」


妹が指を指した方にいる男女を私も見つけていた
キスするちょっと前に彼が耳元で何かを囁いて、彼女の頬に手をそえて顎を少し上に傾けるところから見ていた


妹には見ないのなんて言ったけど
がっつり見ちゃう私ってどうなのよ...
でも仕方がないの、だって佐哉くんだったから


打ち上がる花火をきれいだなんて今は言えない
だってうるんだ瞳は視界をぼやかせて見えなくすんるだから


どうか幸せに、おめでとう、私の好きな人──......


fin