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「送りますよ」
「え?」
最近なぜか紳士的な細野主任。
「そうか、じゃあ神子谷ちゃんのことは細野主任に任せましたよ~!」
「そうですね、私たちはこっちなので!」
「え?ちょっと二人ともこっちj「じゃあ私たち行きますんで~~!!」
柏木さんは酔っぱらった熊井さんの背中を押しながら、反対方向へ歩き出す。
夜道、2人きりになった空間にひんやりと風が横切る。
咳ばらいをしたのち、細野主任が歩き出す。
仕方なく、同じ方向の私も足を揃え歩き出す。
「ちょっと、酔いすぎちゃいましたね。盛り上がりましたもんね」
「・・・・」
あの時と同じように、細野主任は私の言葉を完全無視する。
また何か言い訳を考えているのだろうか。
それにしても、さっきまでよく話してた細野主任とは別人格に感じる。
「細野主任、最近なんか変わりましたよね」
「それはあんたも同じなんじゃないか?」
「え」
次は即答だ。
よく分からないな、この人は。
「成宮とやっぱ何かあったろ。無断欠勤してるのもあんたが関わってるのか?」
「違います」
いや、多分私のせいだ。
でも、そんなこと言ってしまえば私の立場も成宮くんの立場もいい印象にはならない。
こんな時でも私は自分の立場を優先してしまう。
「私の話はいいじゃないですか。主任こそ、常務の娘さんとはどうなんです?」
「は?」
細野主任の眉間にしわがよる。
なにか地雷を踏んでしまったのかと、焦る。
確かに常務の娘さんとできているっていうのは単なる噂である。
まさか、本人の耳に入っていない噂なのか。
頭の中が徐々に真っ白になっていく。
「あんたそれ、ドラマの見過ぎか?」
「え?」
「俺がいつ、常務の娘さんの恋人役になったんだ?」
「いや、えっとそれは・・・」
「っていうかなんだよそれ、常務に娘はいない。いるのは息子だろ?」
「え?」
馬鹿を見たと言わんばかりに細野主任は困ったように笑うのだ。
「このことちゃんと明日まで覚えておけよ、変な噂信じるな、酔っ払い」
「なんだ、そっか、申し訳ありません」
外の飲み屋から聞こえる笑い声に交じりながら、2人、静かに笑いあう。