「もうすぐ着くかも」



柏木さんはスマホを光らせ、何かのメッセージの通知が来たかと思えば、私の顔を見つめる。



「なに?柏木ちゃん誰か呼んでるの?」



「まあね~」



視線を横にずらし、何か企んでいるような表情を見せる柏木さん。



「誰でもいいけど、男だけはやめてよね。女子会だって呼んだのは柏木ちゃんあんただよ」



めんどくさそうに熊井さんは三杯目のビールを飲み干す。



「え」と柏木さんはバツが悪そうにする。



「え、なに、まさか男呼んだの?」



「いや~~~ねえ・・・」



「ん、柏木さんさっきからどうして私の顔見るんです?」



「いや~~~だってぇ」




カツカツと音を鳴らして私たちのテーブルに近づく気配を感じ、私は後ろを振り向く。




そこに現れたのは、カッコいいスーツ姿に似合わぬ、ニコニコした表情の細野主任の姿。




「あ、熊井さんまでいらしてたんですね。お疲れ様です」



「・・・細野主任じゃない。最近噂の」



「噂?なんのことです?」



すると熊井さんは細野主任の肩を力強く組み、私から離れるようにしてみせる。



何か言っているようだが、私にはまったく聞こえなかった。



「あの」



隣に座る柏木さんが、今だとばかりに私に小声で話しかける。



「神子谷さん、ごめんね。やっぱり主任が可哀想でつい誘っちゃったんです」



「そうでしたか。でもまあ、2人きりじゃないので全然。むしろ、よかったっていうか」



「・・・なんか神子谷さんって、勿体ないですよね」



「え?」



「こんな綺麗な女性なのに、なんか勿体ないな~って」



「勿体ない・・・?」




と、柏木さんは、急に手をわざとらしく動かし、挙動不審になる。




「何の話です?」



熊井さんに捕まっていた細野主任がスーツのしわを伸ばしながら隣に座る。



「細野主任、今仕事終わったんですか?」



「ええ、まあ。それより、神子谷さんお酒弱いのに、こんなでっかいジョッキ飲んで大丈夫ですか?」



「これ私のよ」



「え?」「え?」




数秒間みんなが固まり、他のお客さんの声しか聞こえず、おかしくて、面白くて本当に、この日々の喜びだけ感じていたいと思った。