「成宮くん、近いから」



顔を背け、大人の余裕を見せたいがやはり力が入らない。



顔が赤くなっているのが見なくても分かってしまうほどで悔しい。



成宮くんの吐息が唇に触れ、不意に目を見つめてしまうが、成宮くんは私の目を数秒もたたないうちに逸らす。



めずらしいことで驚いてしまう。



「神子谷さんの弱いところ見つけました」



だけど、言葉はいつものように生意気で狂いそうだ。



「なんなの、やめて」



成宮くんの瞳が下を向き、何か言いたげの表情のまま私から離れるのだが、何故か手は握ったまま離さない。





「あの・・・」



横から意味ありげに声をかけたのは、警察からの簡単な事情聴取が終了した柏木さんの姿だった。



私はすぐさま成宮くんを気にかけてしまうのだ。



バッとこちらから成宮くんの手を振り払う。



少しやりすぎたかと思うが、柏木さんに私たちがそういう雰囲気だということを悟らせてはいけない。



そんな風に思われてしまったら成宮くんがかわいそうだ。



「柏木さん!大丈夫ですか?」



何も思っていないようだ。



成宮くんは柏木さんの調子を確認する。



そうだよね。だって成宮くんは誰に対しても老若男女問わず優しいものね。



いやいや、ここで心配しなかったとしても私は成宮くんを非難するのだから、何したって成宮くんの自由じゃないか。



考えすぎてしまったことがとにかく恥ずかしく感じる。



「大丈夫・・・ふたりとも本当にありがとう・・・」



「俺より神子谷さんの手柄っつうか」



まだ本調子じゃない様子の柏木さんのメンタルが不安で仕方がなかった。



警察に打ち明けたとしても、きっとあの出来事は一生の傷となって残るものだ。



「成宮くん、ちょっと外してもらえる?」



「?」



「あ、それと細野主任と事務所の方に連絡お願いできるかな?」



「あーーおけ」



空気を読んだのか、すぐに返事をし私たちから離れていく。