「悪かったな、変に期待させて」



「その言い方だと、なんか、私が細野主任の思わせぶりに勘違いした、勘違い女にかける言葉みたいなんで取り消してください」



「あんた結構長くつっこむタイプなんだな」



「なんですかそれ」



思わず笑ってしまう。



私は後から気づくのだ。



細野主任のおかげで、私の頭の中心にいた成宮くんに対する想いが、ほんの少し片隅にずれた感覚を。




「着いたぞ」



「これが・・・・」



「そうだ、お前が影から支えているお店【premier amour(プリミエ アムール)】だ」



「こんなに、大きかったんだ・・・」



「まだ大阪と東京と愛知の三店舗しかないが、だいぶ大きくて立派だよな」



「はい・・・」



胸が高鳴る音がした。


私、やっぱり、この会社に勤めてることが嬉しいんだ。



「先に行っててくれ、柏木に連絡とる」


「分かりました」



呆気にとられながらも、口を開けてアホ面を見せびらかすわけにはいけないと必死に表情を整える。



お店に入った瞬間の風鈴の音が、夏の風と共に揺れて鳴る。



「あ!神子谷さんよね!?課長さんから話は聞いてます」



「えっあ、はい」



「あ、私熊井です、熊井くるみ(くまい)



お店の販売員の熊井さんは、私を見つけた瞬間飛び跳ねる。



「もう人手が足らなくて困ってたんです、助けてくださいよ~~」


「あっえと、私は何を・・・」


「そんなの決まってるじゃない、レイアウトよレイアウト!」


「え、私やったことないですよ」


「ふっふ~ん、私知ってますよ」


「え?」



にやりと見せた熊井さんの手元には、グループ面接の第一面接の際に提出した私のお店のレイアウト図だった。



「え、なんでそれ・・・」



「課長さんからもらったわ。神子谷さん、第一希望マーケティング部だったらしいですね。
熱血にお店の分析、企画、商品への思いを伝えていたと噂で耳にしてますよ。
ああ、そう、わたし、ここの店長よ」



「え!あ!え!、ご、ご挨拶遅れまして申し訳ありません!神子谷と申します!」



「あはは、いいっていいって!
とりあえず、早くしないと明日になっちゃうわ」