「昨日はありがと、はいこれ」



「え?」



手に渡されたのは、みるく味の飴だった。



「ありが、と」



「もう一個いる?」



「・・・・うん」



「欲張りさんだな」



『昨日はありがと』ということは、連絡先を交換することが無事にできたということなのだろうか。



でも、聞くことができなかった。



もし交換できてなくて、男のプライドを傷つけてしまうかもしれないし、交換できたとしてもそれはそれで私が嫌だし。





「あれ、早いですね」



こんなに暑いのに暑さを感じさせないビジュアルの柏木さんが颯爽と現れる。



手にはバッグ。



・・・あれ。今、来たばかり?



「柏木さんも、早いね・・・」



「うん、今日も外出なんです」



「クレーム?」



「そう、なんですけど、あれもう終わったんだけど・・・ちょっとね」



成宮くんを見ると、いつものキャラを発揮できずに下を向いている。



随分と分かりやすい反応する成宮くんは、確実に恋する男の子に見えた。



これは、今から連絡先交換だな・・・と思い、私は空気を読むことを選択した。



「あ、やば。今日掃除当番だった」



「そうなんですか、じゃあ私ももう行くので」



え、噓でしょ。



それじゃあ私の空気読み作戦が終わって成宮くんの人生が大きく変わってしまうかもしれない。



「や、いやちょっと、もうちょっと涼んでからの方が!!」


「へ?」


「・・・いい、かも・・・よ??なんて、あはっ」


「ああ~じゃあ・・・少し」


「うんうん、それがいいそれがいいって。ねえ成宮くん!」



途端に成宮くんに振ってしまった。私のバカだ。



「いや、柏木さん大丈夫なんですか時間」



大人のような正論を言う成宮くんに、やってしまったと実感する。




「うーーーん、バスもまだくる時間じゃないから大丈夫よ」



黙る成宮くんはやっぱりいつもの成宮くんじゃなかった。



好きな子を前にしてクールに振舞っているんだな、きっと。



「そう、じゃあ少し涼んじゃってください。あははははは~~」



私は逃げるようにして、成宮くんと柏木さんを二人きりの空間にした。