「ふふ」
柏木さんを見て思った。
人は簡単には変われないなどというけれど、それは環境や運命によって大きく変わるのだと。
柏木さんの運命を私があの時変えることができたんだと、少し自分が誇らしくなった。
カチャッと事務所のドアが開き、私は少し肩が上がる。
「そんなびっくりする?」
この声は紛れもなく、成宮くんだった。
「今日出勤だったんだね」
「おう」
あの日から変わらないカッコよさに、胸がキュッとする。
「暑くね?今日」
ワイシャツをパタパタとし、だらしなのない服の着方のまま、チラリと見えるお腹に反応してしまう。
あまり鍛えてはいないように見えるが、あの広い肩幅と背中にいつも頼りがいを感じてしまう。
「ね、暑いね」
「クーラーつけた?」
「あ忘れた」
「いや忘れんなって、倒れるよ」
「おっけい」
「おっけいじゃねえよ、適当に話すな」
乱暴に椅子から立ち上がり、クーラーのスイッチをつけにいく成宮くん。
「なんか成宮くん怖いよ」
「適当に話すからだろ」
理由が子供でかなり愛おしい。
「適当じゃないよ?」
「違うの?」
「うん、だから怒らないで」
「怒ってるんじゃないよ、叱ってんだよ」
「意味が分かんない」
そういい、2人で笑う。
こんな風に意味のないやりとりして、笑いあうのってなんだか良い。
prrrr...
prrrrr....
「電話だよ」と成宮くんは教えてくれる。
外線に反応をし、一気に仕事モードにはいる。
まだ時間でないのに、留守を解除してしまったのだと頭を抱えた。
自業自得だ。
「お電話ありがとうございます。〇〇〇ー〇〇の神子谷でございます。」
そういい、白いメモ用紙を用意する。
視界にはペンを持ち、こちらの様子を伺う成宮くん。