次の日の朝、会社に行くとヒソヒソと言う声があちらこちらで繰り広げられる。



社員登用試験をばっくれたことだろうか、それとも大雨の中細野主任に愛想つかれたことだろうか。



それか、成宮くんのことだろうか。



どれも当てはまりすぎて、顔をあげて歩くことが困難だ。




「聞きましたよ、神子谷さん」



柏木さんの声は、暗かった。



そりゃそうだ、あんなに応援してくれた人の一人だから。



「すみません。台無しにしてしまいました」



「・・・でもなんか納得しちゃいました」



「・・・?」



「成宮くんから連絡きたんです。神子谷さんのことで」



私は気づく。


なんだ、成宮くん、柏木さんと連絡先交換できてたんだ。


こんな時でも嫉妬している私は、やっぱりどうかしている。



「成宮くんのお友達のことで、面接諦めるしかなかったんですよね。
それ聞いた時、わたし、ちょっと嬉しくて」



「嬉しい?ばっくれたんですよ私」



「はい、でも・・・ずっと変わらないな神子谷さんはって思ったら嬉しくて。
困った人を見捨てることができない神子谷さんのやることはやっぱりかっこいいなって。
だから私、別に神子谷さんのことを、面接ばっくれただけで軽蔑しないです普通に」




「・・・そんな」



「神子谷さんは人を助けることができるのに、自分のことは追い込みすぎちゃうでしょ。
わたしは分かってますから」





「優しいですね、柏木さんは。
でも私、柏木さんに褒められるような人間ではないです。
私本当におかしくて・・・」



「話、聞きましょうか?」


「え?」


「熊井さん、誘います?」



にやつきながら、柏木さんはジョッキを持つ素振りを見せて笑かす。