私は今、誰の名前を。



「くらげ・・・」



呼び捨てなんて恥ずかしいからやめてと言ったのに、会社じゃないからという理由で
今もなお呼び続けるその呼び方に、懐かしさを感じてしまう。



自分で頼んでおいて、何を恥ずかしがっているのか。



そんなこと、今考えることではないはずなのに、頭の整理が追い付かない。



それなのに、花火の音が激しく聞こえるから余計にこの空間が重く感じる。



私の視線の先には、人だかりの中に1人、成宮くんが立っているのがはっきりと見える。



会いたかったはずなのに、なぜだか辛い。



どうしてここにいるの?バイトはどうしたの?怒っているの?何かあったの?



聞きたいことが山ほどあることが悔しい。




「神子谷、そっち行こう。花火、もっと綺麗に見えると思うから」



隣にいた細野主任は何を思ったのか、私の視線から成宮くんを遠ざけるかのように誘導する。



「くらげ!」



成宮くんの声は先ほどよりもはっきり聞こえる。



こんなにも人が群がっているにもかかわらず。



だが私は、細野主任に連れられ、成宮くんから離れる。



細野主任は私の腰に手を添えている。その手が私にはとても強引に感じたのだ。




「くらげ!!!」



私を呼び続ける成宮くんに私は一体何ができただろう、何をしてきただろう。



思わせぶりなんかして、告白も曖昧にして、と思ったら振って・・・



私は成宮くんに結局何もしてあげられない。



もう、呼ばないで。



私の好きな貴方の声で、私を呼ばないで。



これ以上好きになってはいけない気がするの。



自信がなくなっていくの。



お願い。



「くらげ!!!!」



角を曲がり、商店街を出たあたりで、成宮くんの私を呼ぶ声は聞こえなくなった。




これでいい。



これが、私のできることなんだ。