「っごめんなさい、すぐに泣きやみます」


わたしは目をぬぐって答えた。

その声は情けないくらい震えている。



「……なぜ謝る? お前は何も悪くない」



優しいトーンでそんなことを言われたら。

なぜだかもっと悲しい気持ちになって、涙が再び溢れ出す。


「少し待ってろ」


男はそう言って車を停め、車内から出て行った。



……わたしを見捨てたのかな。

そりゃそうか。こんな薄汚い服を来た女なんて、あの人にとってはただのお荷物だもんね。


虐待を受けて育った脳は、もう不幸な思考回路になってしまった。


「……はあ」


ため息をついた、その時だった。


向かいの後部座席のドアが開き、黒スーツに身を包んだ男が乗り込んできた。



───っ。


温かい腕の中に包まれる。

背中に回った大きな腕が、安心させるようにわたしを強く抱きしめた。