「ああ、もちろん」


上機嫌な男の声に、高揚感が増す。

ほぼ拉致られているといっても過言じゃない状況で、わたしの心はウソみたいに穏やかだ。


───もう、すべてに疲れ切っていたからかもしれない。



「ありがとう、ございます」



あれ、なんでかな。

ズボンの上に、染みがひとつ、またひとつと増えていく。


思わず頬に触れると、熱いものが止まることなく流れていた。


……わたし、泣いてる? なんで。

別に悲しくなんてないのに。


「……どうした?」



ずびっと鼻をすする音に、泣いていることを知られてしまった。

ミラー越しにその男の目と視線が交わる。


わたしを見る目には、なんの感情もない。

嫌悪も、怒りも、憎しみもない、無感情な色の瞳。


どこからともなく、名の知れない安心感が心をおおっていく。