心地よい揺れに揺られて、もう何時間経っただろう。

わたしは車窓の向こうに視線を投げる。


ゆらゆらとうごめく真っ黒な海をぼんやりと眺め続けていた。



「何を見ている?」



鼓膜を震わす透明な声が、運転席から聞こえた。

この人の声は、ヒトのものではないくらい、透き通った綺麗なものだった。



「……海を、見ています」


わたしは慎重につぶやいた。


「……そうか。何のために?」

「分かりません。ただ、海を見るのは久しぶりで」


「夜の海を見たって、何の感情も湧かないだろう。どうせなら、朝焼け空や夕焼け空の下で見たほうがいい」



わたしは押し黙った。



「……それなら、その景色をわたしに見せてくれますか?」



厚かましい願いだと思った。


だけど、チャンスは今しかないとも思った。