「「え……?」」
シュタイナー夫妻が驚いたように私を見つめる。
「お姉ちゃん……どうしたの? どこか痛いの?」
アデルの小さな手がテーブルに乗せていた私の手に触れてくる。
「い……いいえ、大丈夫よ、アデル。どこも痛くないから……」
まだこんなに小さいのに、なんて優しい子なのだろう。涙ぐみながら、そっとアデルの頭を撫でると、婦人がためらいがちに声をかけてきた。
「フローネさん……本当は尋ねるのをやめようかと思っていたのだけど……、もしかすると何か深い事情があるのじゃないかしら?」
「え……? な、何故そう思うのですか……?」
するとシュタイナー夫妻は顔を見合わせ、再び婦人が話しかけてきた。
「それは、あなたが持っていた荷物よ」
「え……? 荷物……?」
「出会った時、あなたは大きなボストンバックを持っていたでしょう? あんな大きなボストンバックを持って、お祭りに来ているのは少しおかしいと思ったのよ」
「それに旅行だと話していたが。普通なら荷物はホテルか駅に預けて観光をするだろう? 現に私達は荷物は全てこのホテルに預けておいた。それなのに、フローネさんは荷物を持ち歩いていたのだからな。……何か、深い事情があるのだろう? ここで知り合ったのも何かの縁だ。話してみないかね?」
「ええ、そうよ。聞かせて頂戴?」
優しい声で語りかけてくるシュタイナー夫妻。
本当に……バーデン家の人たちとは大違いだった。……この人たちになら、自分の辛い胸の内を話してみてもいいかもしれない。
「じ、実は……」
私は涙混じりに、今までの経緯を全て話した。父を亡くしてから、バーデン家を追い出されるまでの話を全て。
その間、シュタイナー夫妻はじっと私の話に耳を方向け、アデルはテーブルでお絵描きをしていた。
「……そんなことがあったのか……」
沈痛な面持ちでシュタイナー氏が呟く。
「可哀想に……そんな酷い目に遭ったのね……? さぞかし、辛いことだったでしょう?」
婦人が同情の込められた目で私を見つめる。
「も、申し訳ございません……朝から、このようなお話を聞かせてしまって……」
ハンカチで溢れる涙を拭いながら、謝罪の言葉を述べた。
「何を言っているのだい? フローネさんは何も悪いことはしていないだろう?」
「ええ、そうよ。悪いのはそのバーデン家の人たちなのだから」
「ですが……私が思い上がっていたことは……事実ですので……」
そうだ、私は2人の幼馴染ということで何処か思い上がっていたのだろう。
だからクリフに『僕が一生面倒を見てあげるから家においで』と言われた時、プロポーズの言葉だと勘違いしてしまった。
自分の立場も顧みずに……。
「いいえ、フローネ。あなたは少しも悪くないわ」
「ああ、その通り。自分を卑下する必要はどこも無いからな?」
「あ、ありがとうございます……」
シュタイナー夫妻の優しい言葉が身に染みて、再び涙が浮かぶ。
「お姉ちゃん……泣かないで?」
絵を描いていたアデルが私の手に触れてきた。
「アデル……」
本当に、なんて心の優しい人たちなのだろう。この人たちのお陰で自分の心が救われた気がする。
「でもフローネさんの今の事情がよく分かったわ」
「ああ、そうだな……」
夫妻は再び目を合わせて頷きあうと、シュタイナー氏が私に声をかけてきた。
「フローネさん。そういうことなら、どう? 私達と一緒に『レアド』に来ないかね?」
「ええ。実はアデルのシッターを捜していたのよ。この子はこんなにもフローネさんに懐いているわ。どうかしら? あなたさえよければアデルのシッターになって貰えないかしら?」
「え……? アデルの……シッターに……?」
それは、思いもかけない夫妻からの提案だった――
シュタイナー夫妻が驚いたように私を見つめる。
「お姉ちゃん……どうしたの? どこか痛いの?」
アデルの小さな手がテーブルに乗せていた私の手に触れてくる。
「い……いいえ、大丈夫よ、アデル。どこも痛くないから……」
まだこんなに小さいのに、なんて優しい子なのだろう。涙ぐみながら、そっとアデルの頭を撫でると、婦人がためらいがちに声をかけてきた。
「フローネさん……本当は尋ねるのをやめようかと思っていたのだけど……、もしかすると何か深い事情があるのじゃないかしら?」
「え……? な、何故そう思うのですか……?」
するとシュタイナー夫妻は顔を見合わせ、再び婦人が話しかけてきた。
「それは、あなたが持っていた荷物よ」
「え……? 荷物……?」
「出会った時、あなたは大きなボストンバックを持っていたでしょう? あんな大きなボストンバックを持って、お祭りに来ているのは少しおかしいと思ったのよ」
「それに旅行だと話していたが。普通なら荷物はホテルか駅に預けて観光をするだろう? 現に私達は荷物は全てこのホテルに預けておいた。それなのに、フローネさんは荷物を持ち歩いていたのだからな。……何か、深い事情があるのだろう? ここで知り合ったのも何かの縁だ。話してみないかね?」
「ええ、そうよ。聞かせて頂戴?」
優しい声で語りかけてくるシュタイナー夫妻。
本当に……バーデン家の人たちとは大違いだった。……この人たちになら、自分の辛い胸の内を話してみてもいいかもしれない。
「じ、実は……」
私は涙混じりに、今までの経緯を全て話した。父を亡くしてから、バーデン家を追い出されるまでの話を全て。
その間、シュタイナー夫妻はじっと私の話に耳を方向け、アデルはテーブルでお絵描きをしていた。
「……そんなことがあったのか……」
沈痛な面持ちでシュタイナー氏が呟く。
「可哀想に……そんな酷い目に遭ったのね……? さぞかし、辛いことだったでしょう?」
婦人が同情の込められた目で私を見つめる。
「も、申し訳ございません……朝から、このようなお話を聞かせてしまって……」
ハンカチで溢れる涙を拭いながら、謝罪の言葉を述べた。
「何を言っているのだい? フローネさんは何も悪いことはしていないだろう?」
「ええ、そうよ。悪いのはそのバーデン家の人たちなのだから」
「ですが……私が思い上がっていたことは……事実ですので……」
そうだ、私は2人の幼馴染ということで何処か思い上がっていたのだろう。
だからクリフに『僕が一生面倒を見てあげるから家においで』と言われた時、プロポーズの言葉だと勘違いしてしまった。
自分の立場も顧みずに……。
「いいえ、フローネ。あなたは少しも悪くないわ」
「ああ、その通り。自分を卑下する必要はどこも無いからな?」
「あ、ありがとうございます……」
シュタイナー夫妻の優しい言葉が身に染みて、再び涙が浮かぶ。
「お姉ちゃん……泣かないで?」
絵を描いていたアデルが私の手に触れてきた。
「アデル……」
本当に、なんて心の優しい人たちなのだろう。この人たちのお陰で自分の心が救われた気がする。
「でもフローネさんの今の事情がよく分かったわ」
「ああ、そうだな……」
夫妻は再び目を合わせて頷きあうと、シュタイナー氏が私に声をかけてきた。
「フローネさん。そういうことなら、どう? 私達と一緒に『レアド』に来ないかね?」
「ええ。実はアデルのシッターを捜していたのよ。この子はこんなにもフローネさんに懐いているわ。どうかしら? あなたさえよければアデルのシッターになって貰えないかしら?」
「え……? アデルの……シッターに……?」
それは、思いもかけない夫妻からの提案だった――