ついに花火大会当日。
『学校の前に集合ね‼︎楽しみにしてる‼︎』
一昨日言われた言葉がよみがえる。
浴衣とか着て行った方がいいのかな…?
私はクローゼットを開けて、
「お母さん…」
とつぶやいた。
あれからまともに口をきかなかったのに、何着か浴衣が入っていた。
私は、水色の色とりどりのアジサイが描かれた、帯は濃い紫色の浴衣を選んだ。
背中まである髪は、クルッと1回転させて、後頭部でピンで留める。
全然塗ったことのないリップを塗って…。
なんで私、こんなに気合いが入ってるんだろう。
それは…きっと歩夢のことが好きだからだ。
でもこれは、友達としてなのか、恋愛なのかはわからない。
私は待ち合わせ場所に行くと、すでに歩夢はいた。
「鈴見さん‼︎浴衣も、髪型も、鈴見さんもかわいいね‼︎」
「あ、ありがとう」
歩き出すと、なんだか歩夢がよそよそしい。
「あ、あのさ、よかったら…、嫌だったら全然いいんだ…手、繋いでくれない⁉︎」
ええ⁉︎
手を繋ぐ…⁉︎
パニック状態っ‼︎
もういいや、後悔してもいい!
「うん…いいよ」
うっわ…ドキドキが加速していく。
「「ねぇ、」」
言葉が重なってしまって、歩夢から話すことになった。
「名前で呼んでもいい?」
「…」
まだ憎んでる親がつけた名前は、未だに好きになれない。むしろ、嫌いだ。
「ごめんなさい…私を捨てた親がつけた名前だから、好きになれないの。だけど、歩夢が言ってくれたように、過去にこだわってないで、前に進もうと思う。だから、もう少し待ってほしいの」
「うん」
歩夢が優しく微笑みながらうなずいてくれるから、
「あだ名をつけてほしいな」
「うーん…そうだな。すず、はどう?鈴見っていう苗字から取ったんだ」
「いいね!ありがとう」
すず、か。
嬉しい。歩夢からつけてもらった名前。
「どういたしまして、すず」
恥ずかしくなって、
「私、歩夢くんのこと、歩夢って呼び捨てで呼んでいい?」
「もちろん。呼んでみて」
「あゆ、む」
心の中では呼んでたけど、いざ声に出すと恥ずかしい…‼︎
「そういえば、歩夢は、歩くに夢でしょ?親から、どんな想いが込められてるかわかる?いい名前だなって思って」
いきなり話題を変えてしまったけど、歩夢は嫌な顔ひとつせず、
「ありがとう。俺はね、そのままだよ。少しずつでもいいから、夢に向かって歩んでほしいって。転んでもいいから、また立ち上がってほしい。絶望していいから、また希望を見つけてほしい。そういう想いが込められてるんだって」
「素敵な名前だね」
それだけしか言えなかった自分が情けない。
けど、だいぶ素直になれたんじゃないかな。
あとは、授業態度を直さなくちゃね。
「ありがとう。そういえば、鈴見っていう苗字は、里親さんの苗字なの?」
「うん。だから…私にすず、ってつけてもらったとき、すごく嬉しかったの。ちょっとだけ、自分に自信が持てたの」
「それはよかった。あ、着いたね。あのベンチに座ろう」
私たちは隣同士に座った。
「あと何分で花火大会、始まる?」
「5分かな。意外とすぐだね」
「私は、歩夢と話せて楽しかったけどね」
自然に素直な気持ちを伝えることができた。
「え…俺も!すずからそんなこと言ってもらえるなんて嬉しい」
「ど、どういたしまして」
私は空を見上げて、空に花が咲くのを、楽しみに待つ。