「下手ですみませんけど」と、ウィルが淹れてくれたお茶は美味しかったと思う。


「まったく。夜、灯りを点けてする話がこれですか。いつになったら、ちょっとは色っぽくなるんですかね」


そんなことを言うから、味がよく分からなくなった。


「……拒んだのは、あなたの方だと思うけど」


わざわざチクリと事実を可愛げもなく言ってしまったのに、隣に座ったウィルは愛しそうにこちらを見るだけ。


「……あんたのご両親の馴れ初めとかって、聞いたことはあるんですか? 」

「ううん、特には。普通に出逢ったんだと思ってたけど……」


違ったのだ。
ううん、出逢い自体は普通だったのかもしれない。


「貴族様同士の普通って、どんななんでしょうね。少なくとも、俺たちとは全然違う。……あんたは、ちゃんと姫さんだってのに」

「……きっと、出逢い方なんて大事じゃなかったんじゃないかしら。少なくとも、二人には」


もちろん、娘たちに言えなかったこともたくさんあるのだろう。
でも、そんなこと考えたこともなかったほど、二人はお似合いで――幸せそうだった。


「……これは、俺の想像でしか……いや。希望がかなり入った憶測にすぎません。それなのに、これを聞いたら、あんたは絶対に悩むし苦しみます。だから、知らないでいてほしい。そんな俺の我儘は、聞いてもらえないんですよね」

「そんなのは我儘じゃない。だから、聞かないわ」


人には言うくせに、自分こそちっとも我儘なんかじゃない。
私の為に伏せておきたいという優しさは、今は受け取らない。


「私のことなんでしょう。それをウィル一人が背負ったりしないで。一緒にいられる方法を、私にも探させてほしい」


真実を知りたい。
そこに、ウィルが離れていく理由があるのなら尚更だ。
気を抜けば、両親のことすら忘れて、ただウィルを引き留めたい一心になってしまいそうで。
ぐっと掌に爪を立てる。


「あんただけじゃない。二人のことですよ」

「……じゃあ、隠したら許さない」


何だか分からないけれど、私の血筋が関係している。
それを「二人のこと」だと言ってくれるのが嬉しくて、涙が溢れそうになるのを慌てて引っ込めて。
そうすると、どうしてもぶっきらぼうで嫌な言い方になってしまったのに、ウィルはそっと私の肩を抱き寄せてくれた。


「はいはい。分かりましたよ。でも、その代わり約束してください」


――俺と、いてください。この先も、ずっと。


「いる。今から何を言われても、絶対に離れてなんてあげないから」


変だと思った。
ウィルからそんなことを言うなんて、事態は私の想像以上に辛いものなのだと、これではっきりした。
何一つ好転していないどころか、これは悪い兆候なのだろう。


「そうしてください。……信じろなんて言わない。あんたの苦しみは、きっとあんたにしか分からない。だとしても俺は、あんたが好きだ」


信じてる。
その言葉が重みになるのなら、私はどう伝えたらいいのか。


「分からなくても、ウィルは知っててくれる。伝えてくれたら、それで十分」


好きだと言ってもらえたら、それだけで――言葉にしなかった確信は、その後脆く壊れてしまうのだけれど。
ただ一つ、変わらないことがある。

――私は、幸せだ。