「……あんた、適応能力ありすぎでしょ。本当に、ちゃんと貴族の姫、してました? 」


バイトしたり山歩きしたり、我ながら上手く適応できてるとは思うけれど、そう言われるとムカつく。


「……ちゃんと姫してるって、なに」


お姫様だったとは思うけれど、お姫様らしくはできていなかったかもしれない。
結果、こうやって多少なりともお手伝いできるなら、それでいいではないか。


「子ども抱っこして怒らないでください。泣いちゃいますよ」


今なら文句言い放題とばかりに、ウィルはせせら笑ってみせるものの。


(足に纏わりつかれながら悪人顔したって、全然説得力ないんですけど)


翌日、早速ステフを訪ねたがる私に、げんなりという表情を隠すことなく、寧ろやめろと主張していたウィルだったけれど。
いざ来てみれば、私よりもずっと上手に子守をしている。
大体、一番に背中に飛びつかれていたのはウィルの方だ。


「適応能力もだが、お人好しという、ある意味特殊技能だな」

「それは能力じゃなくて、ジェラルドから遺伝した困った癖だ」


ステフの登場に、子どもたちが一斉に駆けていく。
膝が軽くなって少し寂しいけれど、その代わりに隣に腰を下ろしたウィルにそっと肩を寄せられてそれどころではなくなる。


「別に、ユリアーナだけに言ったつもりはないが」


ステフが口角を上げたのは、そのどれを見たからだろう。
敢えて言われないことに逆に照れてしまって、何だかそわそわしてしまう。


「まずは、また訪ねてきてくれてありがとう。仇だと言われても仕方のないことなのに」


子どもたちがお昼寝の時間に入り、ステフがそう切り出した。


「ステフ。父を殺したなんて、今後は思わないで。父はきっと何かをやり遂げたくて、ここに残ることを選んだ。それが家に帰るという選択じゃなかったことは寂しいけど、それ以上に私は誇らしいと思うんです」


まともに顔を合わせたのは、いつが最後だっただろう。
外出が増えて、帰宅することが少なくなって。
看取ることすらさせてもらえなかったことに、少しも怒りが湧かないと言えば嘘になる。


「気持ちが分かる気がするから。ここを見たら、みんなを見ていたら。屋敷に戻るより、何かできることがある気がするもの。……でも、妹たちのことは気掛かりなんです。だから私は、父より欲張りなのかも」


借金の額が途方もなさすぎて、考える気も起こらなかったけれど、あれから屋敷の生活はどうなったのか。
ミゲルの実家にまで、迷惑を掛けていないか。
子どものお小遣いくらいにしかならない仕送りでも、少しは役に立てているのか。
どうしたら、この騒動の本質を見ることができるのか。
考えても分からないことが、あまりに多すぎる。


「そんなのは欲張りなんて言わないし、寧ろかけ離れてる。……あんた、自分のことに無欲すぎるんですよ」

「そうでもないわよ」


だって、そう言いながらも私はウィルの肩に頭を預けたままだ。
欲しいものもたくさんあって、しかもそのどれも諦めるつもりがない。


「全部叶う気がする。だって、私はものすごく幸運だもの」


幸運の竜にも、初恋の人にも出逢えたし、愛されている。


「意味不明すぎます。でも、ああ、意味なんざないんだって呆れるの、わりと好きだとか……完璧イかれてる。どうしてくれんですか」


そのどこにも、不幸な要素を見つけたくないの。