(……また、だ)


ウィルの胸に倒れ込む――予期できたのに、抵抗する気は起きなかった。
素直に頬を寄せる私になぜか驚いて、また軽く溜息を吐く。


「俺がしたいんですよ。でも、こんなことじゃなくて、あんた自身の我儘にしてほしい」

「……うん」


早く解決しよう。
道はまだ見えないけれど、ウィルとの未来だけ考えられる日が来るように。


「……ってことで」

「きゃっ……」


真面目な話は、少なくともいったんは終わりだというように言われたと思ったら、身体が反転していた。


「言いましたよね。次は、あんたが下ですよって」


(い、言われたけど、覚えてる……けど……!! )


「で、でででも。あんな冗談……」

「は? 冗談? 」


考えなしにくっついたんじゃないのに、そう言われてしまうと今更ジタバタしてしまう。


「好きな女に、冗談なんか言わない」


――でも、真剣な顔して宣言されたら。


「……馬鹿ですね」


振り払う気にはならない。
それどころかぎゅっとウィルの袖を握り締めるのを見て、この上なく優しくそう言って。


「俺が今まで、どれだけ苦労してたか。少しは味わってください」

「う、嘘。全然そんな感じじゃ……」


同室でドギマギしてたのは私だけで、ウィルは私のことなんかまったく気にしてないって感じ――……。


「“そんな感じじゃないって感じ”にしてあげたんです。こうして抱かれて眠ったら、さすがのあんたも少しは分かるでしょ」


――だったから、私だけ意識するのも馬鹿らしくて、いつの間にか平気になった感は否めないけれども。


「……っ、だから、こ、この状況で眠れないわよ……! ど、ドキドキしすぎて、む、無理に決まっ……」


唇が重なるまで、ウィルは時間をくれた。
なのに、途中で無言になったのは、目を瞑る勇気が出なくなったから。
意思を尋ねられ、小さく頷いてやっと啄まれた。


「あれで、信じられるか。だから、離さない。大人しく諦めて」


そう言われて、ウィルの腕の隙間がきゅっと狭くなって。
それなのに私は、空間を更に埋めるようにウィルの背中に腕を回した。


「……あーあ。やっぱり、切ないの俺だけじゃないですか」


撫でられるたびに瞼が重くなる。
初めてキスされたのが嬉しくて、ニヤニヤしそうになるのを堪らえるには、疲労から来る睡魔に身を委ねるしかなかった。
ウィルがブツブツ言いながらそっと私の身体を剥がすと、閉じた瞼の上に影を感じた。


(……私だって、切ないのに)


期待していたキスが、額だったのも。
文句すら愛情を感じて嬉しいのに、ウィルの気配が遠ざかったのも。

――いつか勇気が出たら、その背中を引き留めたい。

そう思いながら、眠りに就くのも。