「ミゲルは、どこまで知っているのかしら」


真剣な話の続き。
声は囁くように絞り出せても、ウィルの肩に甘えるのは我慢できなかった。


「俺たちが知らないことも聞いているはずです。借金の原因はもちろん、あんたが屋敷を出ていかなくてはいけなくなった理由も。……いや、そうじゃない」


ウィルの口調も堅いけれど、髪を撫でる手はこの上なく甘いままでいてくれる。


「……恐らく坊っちゃんは、あんたを逃がした(・・・・)

「えっ……? 」


でも、その言葉にはさすがに頭を起こさずにいられなくて、ウィルは苦笑して小さく息を吐いた。


「前も言いましたけど、おかしいと思いませんか。借金を少しでも軽くしろと言うわりに、達成の見込みがなさすぎる任務なんですよ。面白半分の賭けなんて感じで誤魔化してますが、坊っちゃんは姫さんに返済させようなんて微塵も考えてないとしか思えない」

「じゃあ、厄介払いじゃなくて……」


守ってくれようとしている。
でも、一体誰から――……。


「借金の原因から、ですかね。……ねぇ、姫さん」


そっと頬を包まれ、ウィルとの距離が近くなる。


「これも、ずっと言ってるんですけど。……俺じゃダメですか。屋敷には戻れないかもしれない。戻らない方がいいかもしれない。それなら、あんたの側にいるのは俺じゃダメなんですか……? 」


綺麗な青い瞳に吸い込まれて、まともな自分でいられなくなりそうな危うさ。
どうにか平静でいられるのは、ウィルが一生懸命私を言いくるめようようとしていて、それが優しさゆえであることを知っているから。


「ウィルじゃなきゃダメよ。でも、このままにはしておけない」


それとこれとは別――そんなことも気づかずにいられたら、楽だったのかな。


「……あー……」


唸り声を上げると、あっさりと頬から手を離して、ウィルはベッドにバタッと大の字になった。


「でしょうね。でも、もうちょっとくらい揺れてくれてもいいんじゃないですか」

「分かってて聞いてるの、バレバレなんだもの」


ウィルといることにも、真実を知りたい気持ちも揺るがない。
ただ、この瞬間、大好きな人の甘い言葉だけ聞いていたくなるという誘惑に揺れるだけ。


「やっぱり、あんたは面倒だ」

「……ごめんなさ」


謝るよりも先に、恐怖からか距離を取ろうとした私の手首を掴む。


「……でも、それが好きってことなんでしょうね」


そう少し慌てて、早口で言って。