ウィルが竜の子――……。


「子だか孫だか。自分の血にどれだけ人間じゃないものが流れているのか、俺すら知らない。ただ言えるのは、その血も人間と同じように赤くて、身体のほぼ半分は化け物だ。俺がどちらなのか、どちらの血が濃いのかなんて、調べるのは早い段階で諦めた。どっちの世界でも上手くやれないんだから、無駄すぎる」


胸がドクドクと音を立てる。
盗み聞きは申し訳なかったけれど、真実を知りたい気持ちには抗えなかった。

ウィルの前髪に隠された部分。
何となく、傷や火傷の痕があるのかと勝手に思っていた。
いつか、そこに触れるのをウィルが許してくれたら――そんなことを厚かましく願っていたりもした。


「ジェラルドは違っただろう」

「……ああ。姫さんのお人好しは、間違いなくあのオッサン由来だろ」


ウィルの声が一気に和らいで、切なくてひたすら嗚咽を堪えた。
父が亡くなっていたことは悲しいけれど、私たちを見捨てて蒸発したのではなかった。
少なくとも、ウィルの知る父は私の記憶にあるお父様と同じだ。


「ならば、ユリアーナの想いに応えればいい。ジェラルドがそうだったように、ユリアーナもお前自身を見てくれている。隠していた部分を見たからといって、逃げるような女性ではないと分かっているはずだ」


(そうよ。私を見くびらないで)


ウィルをもっと知りたい。
許されるなら、もっと触れたい。
大好きな人を見て逃げたりなんて、そんなこと絶対――……。


「見初められたら幸せになる。そんな伝説の竜が、不幸にしてどうする。……それだけは、絶対に許せない」


――しないのに。


「……幸福の竜」

「それも定かじゃないけどな。そもそも人間が勝手に呼び始めただけで、そんな種類の竜はいない。だとしても、それを信じてる姫さんを不幸にするのが俺なら。そんなの、今まで生きてきたなかでも最悪だ」


(……馬鹿ウィル)


もっと辛いことがたくさんあったでしょう。
もっと悔しい思いをしたことも、他にたくさん。


「なぜ、不幸になると決めつける。辛い思いもするかもしれないが、それが不幸とは限らない」

「俺が嫌だからだ」


そんなことを、ウィルのこれまでの「最悪」なんかに数えないで。


「最後がいつだか分からないほど久しぶりに、人を信じられると思った。信じてみたいと思えた。……幸福の竜のくせして」


――初めて、誰かに幸せでいてほしいと思った。


「本当にそんな力があればよかった。初めて、そう思ったんだ。ユリが強かろうが弱かろうが。俺が化け物でも気にならないとしても関係ない。俺がもう何も感じなくなったことを、ユリに経験させたくな……」


止まらなかった。
側にいられないなんて、とても耐えられない。
背中に後ろから抱きつくと、ウィルは慌てて身を捩ろうとしたけれど、大人しく逃げたりなんてできるわけがない。


「好き」


幸福の竜なんて要らない。
私は、私の幸せは――……。


「ウィルといたいの」


――この人と、一緒に生きることだ。