そして、イヴァンの立ち位置を完全に理解した頃、イヴァンがシルビアの部屋を訪れた。

「シルビア、出かけるぞ」

 突然現れて何を言い出すかと思えば、外出の誘いだった。
 外行きの服に身を包み、いつでも出かけられる準備ができているイヴァンと違って、シルビアはドレス姿とはいえ薄化粧のままだ。女性が準備に時間がかかることも考えずに誘ってくるところが、うつけ者のイヴァンらしい。

「今すぐには無理です。着替えも化粧もしなければいけませんし……」

「そんなものは必要ない。そのドレスで十分だろう」

「王太子妃がこのような格好で外を歩けば、この国の財政が疑われます」

「誰にも見られないから大丈夫だ!ほら、さっさと行くぞ」

 てっきり公務のための外出かと思っていたシルビアは、眉を顰めた。

「待ってください。一体何をしに行くおつもりですか」

「デートだ!」

 デート。
 聞きなれない言葉に、思わずオウム返しをしてしまう。

「なぜ私と殿下がデートを?」

「わざわざ理由を言わないと出かけられないのか」

 イヴァンが呆れたように言った。

 未来の王太子妃という立場になったとはいえ、王太子の命令を拒めるはずもなく、シルビアは渋々重い腰を上げ、イヴァンの後について行った。

 結婚式まではまだ時間があった。
 それまでに親交を深めようということなのだろうか。
 二人の関係性は出会った頃となんら変わっていないのだから。