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「これより、王太子イヴァン・ザカルトと、シルビア・シャーノンの結婚式を執り行います」

 神父が二人の間に立ち、誓いの言葉をすらすらと口にした。

 聴衆は皆、過去にうつけ者と呼ばれ蔑まれてきたイヴァン・ザカルトと、才女であるが感情が欠如している悪魔公女シルビアシャーノンを見て、冷笑を浮かべ、囁きあった。

「お似合いの二人だな」
「ああ、どちらとも大きなものが欠如している」

 神父が神への誓いを終え、二人に向かって言った。

「その命が尽きる最後の日まで、互いを尊重し、互いを思いやり、互いを愛すことを誓いますか」

 シルビアが「はい」と返事をすると、顔をしかめたイヴァンの口が動き、シルビアがきょとんとした顔で見つめた。
 そして、しばらくすると、

「ふっ……ふふっ」

 と、シルビアが声を漏らし、小さく笑った。
 すると、それを見ていた聴衆がざわついた。

「悪魔公女が笑ったぞ……!」
「あのシルビア様が?一体何があったんだ?」
「いやいや、それにしても……」

 なんと美しい——。
 
 シルビアの笑顔を見た人々は皆、ほうっと満開の花が咲いたような眩しい笑顔に釘付けになった。

 ざわめきに気づいたイヴァンが、怒ったように眉を吊り上げる。

「あまりそのような笑顔を皆に見せるな……!」

「なぜです?」

「特別だからだ!」

 イヴァンを胸を張ってそう言った。目の前の愛しい男を抱きしめたい気持ちをぐっと堪え、シルビアはじっと見つめ返した。

「それでは誓いのキスを……」

 イヴァンがシルビアのベールをそっと持ち上げる。近づく真剣な表情に、なぜか愛おしさが込み上げる。


 

——最後の日などない。俺は来世もお前と結婚するつもりだ。


 

 うつけ者の堂々たる宣言を思い出したシルビアは、またくすぐったいような気持ちで笑みをこぼした。



 fin.