イヴァンはシャーノン家の力を恐れているようだが、シルビアをぞんざいに扱ったからといって、あの父は動かない。むしろ、いくらでも都合のいいように使ってくれとでも思っていそうだ。
 しかし、シルビアがイヴァンに刃向かい、王室との関係が悪くなれば、父が黙っていないだろう。父にとって、自分はその程度の存在なのだ。

 イヴァンが何か言いたげな様子でこちらを見ていたが、どこからともなく現れたイヴァンの執事によって遮られた。

「殿下、会議の時間です」

「今はシルビアと大事な話をしているんだ。会議は遅らせろ」

 イヴァンがそう言い切ると、シルビア思い切り眉を顰めた。
 こんな話より、公務の方が大事に決まっている。
 
「殿下、私のことは気にせずに、どうぞ公務を優先してくださいませ」

「だが……」

「それが私の唯一の望みです」

「本当のことを言え。俺に遠慮などする必要はない。それに……」

「殿下」

「……わかった。だが、後からちゃんと話そう。俺たちには対話が必要だ」

 シルビアの強い語気に、イヴァンは納得のいかない表情を見せながらも、それ以上何も言うことなく去っていった。

(殿下も大変ね。嫌いな相手の機嫌をとらないといけないだなんて……)

 イヴァンの後ろ姿を呆然と見ていると、シルビアの足元にはニャーニャーと子猫が擦り寄っていた。
 さっき、シルビアに対して牙を向いていた子猫だ。危険な相手じゃないとわかれば、すぐに心を許し、甘えてくるのがこの種類の猫の特徴らしい。

「やっとわかった?私は悪魔の中でも、とびっきり優しい悪魔なのよ。恐れることはないわ」

 そう言い聞かせるように頭を撫でると、子猫は気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らした。