ステージの壇上から舞台袖に降りていくと、ダンスを披露したあとも、その場にとどまっていた映文研のメンバーだけなく、リコやナミが駆け寄ってきた。

「亜矢〜、すっごく良いスピーチだったよ〜!」

 感激屋のリコが、わたしに抱きついてくる。
 一方、こういうときでも、クールな態度を崩さないナミは、ニヤニヤと笑いながら、話しかけてきた。

「まさか、スクリーンで自分の恥ずかしい写真を晒すとはね〜。ウチも予想がだったわ〜。まさか、一足早く、()()罰ゲームを実行してるとか?」

「ナニ言ってるの? この場には来ていないけど、まだ寿太郎が『学院アワード』でトップになる可能性はあるんだよ? ナミこそ、罰ゲームの覚悟はできてるの?」

 そう反論すると、友人は、

「アヤ、変わったよね……自分のことより、他人のことを気にするなんて……」

と、さらに可笑しそうに、クスクスと笑う。
 その発言に、さらに異議を申し立てようとして、口をひらきかけたんだけど、リコが、わたしたちの腕をつかみながら、声をかけてきた。

「ねぇ! また、なにか始まるみたい……」

 彼女が指を指した方に視線を向けると、舞台後方の大型スクリーンでは、さっきまでわたしが投影していた画像に代わって、パソコンのウィンドウ画面が表示され、動画再生の準備が整っていた。
 その光景を見て、柚寿ちゃんから届いたメッセージを思い出す。

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 うちの兄が亜矢ちゃんのことを
 まとめた動画を編集しています

 ステージで上映するそうなので
 見てくれると嬉しいです

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 彼女のLANEメッセージには、そう書かれてあったハズだ。

「そうだ! 舞台に立つ代わりに、寿太郎が作った動画が上映されるんだ!」

 声をあげると、映文研のメンバーたちも反応を示し、二年生の浜脇(はまわき)くんが、

「えっ!? 部長は、あのドキュメンタリー以外にも動画を編集してたんですか?」

と、わたしにたずねてくる。

「さっき、柚寿ちゃんから、LANEでメッセージをもらったんだけど……映文研のみんなは知らまかったの?」

 彼らの意外な反応に対して、こちらから逆に質問を返すと、苦笑いの表情を浮かべながら、安井(やすい)くんが答えた。

「たぶん、ここにいない、()()()()()しか知らないんでしょうね……」

 彼が指差しながら示したのは、ステージ反対側の音響ブースで実行委員会と語り合っている映文研の部長と副部長だった。

「部長、投票に間に合ったんですね!」

「良かった〜!」

 一年生の広田(ひろた)くんと平木(ひらき)くんが、感激したように声をあげる。
 寿太郎の姿を目にした瞬間、わたしにも、彼ら一年生と同じく、いや、もしかすると、それ以上に、ホッと胸をなでおろすと同時に、感慨深い感情がこみ上げてくる。
 それでも、そんな想いを周りに悟られないようにしながら、わたしは、柚寿ちゃんから届いたメッセージに応えるように、みんなに伝える。

「せっかくだから、ここじゃなくて、スクリーンが見やすいステージ前に移動しよう?」

 わたしの提案に、周りの全員がうなずき、ステージ前方に移動し始めたところで、スピーカーからのアナウンスが聞こえてきた。

「それでは、『学院アワード』の投票締め切り前、最後のエントリーです。三年生・深津寿太郎(ふかつじゅたろう)くん制作の動画、タイトルは、『あるクラスメートの素顔』! それでは、どうぞ」

 わたしたちが、人混みのすみっこで、どうにかスクリーンを確認できる場所を確保するのと、ほぼ同時に映像の再生が始まる。

(寿太郎は、どんな想いで、この動画を編集したんだろう?)

 わたしは、彼を自分のつまらない思惑に巻き込み、利用しようとしてしまった。
 舞台上で話した通り、それは、くつがえしようのない事実だ。

 だから、これから目にする映像が、自分にとって、どれだけツラい内容であろうと、わたしは、それを受け止めなければいけない――――――。

 ステージに立つ前以上の覚悟を持って、目を凝らすようにスクリーンを見つめると、画面の中央に見慣れた顔が現れた。