「私、自分以上に強い方しか興味がございませんと申し上げたはず。それに私はお母様の仇を討つまでは結婚なんてしたくありませんわ」

「そうだな……うむ、わかった」

お父様は葉巻に手を伸ばすと蝋燭で火を点け、ゆったりと椅子に背をもたれさせた。

「もう行っても宜しいでしょうか?」

「あ、いや……」

「お父様、もしかして何か手がかりでも?」

「……ああ、お前に話すか迷ったが……お前が十年前に見たという(つば)だが、王族の証である蔦を模った紋章で間違いなさそうだ、という話を以前したのを覚えてるか?」

「えぇ、ちなみに私もドーナと一緒に紋章について書かれた古文書を調べましたが、本に記載されていた絵と記憶が合致しました」

私が目撃した、お母様を殺した犯人の唯一の手がかりである剣の鍔は、王族の子孫繁栄の象徴である蔦を模っていた。

つまりお母様を、殺した犯人は王族関係者である可能性が高いということまではわかっている。  

「最近、第一王子付きの近衛兵として配属されたディランが言うには、現在王族関係者であの鍔を使った剣を持っている者は一人もいないとか」

「お兄様も色々調べてくださってるのですね」

「ああ、ただ任務が忙しい上、第一王子様は国外へ視察に行かれることも多く、あまり自由になる時間がないようだ」

あの日以来、お父様も兄のディランも犯人の手がかりを掴むために忙しい任務の間をぬって色々と手を尽くしてくれている。

(私も男に生まれていればもっと助けになれたのに……)

「マリアの薬剤の取引日誌から手当たり次第に付き合いのあった者を一人残らず調べたが唯一、あの夜に会うことになっていた人物だけ名前の欄が『demon(悪魔)』だったと話したのも覚えているか?」

「はい」