(なんだか……掴みどころのない旦那様だわ)

(いつも怖い顔していて威圧感があって)

(でも……本当に悪魔と呼ばれるほどの恐ろしい人なのかしら……?)

私は天井からルーカスの後ろ姿と黒髪に視線を移し、そんなことを考えていればだんだんと眠気が強くなってくる。

(誰かがそばにいて眠るのなんて……お母様が添い寝してくれていた以来だわ)


私たちの結婚生活はまだ始まったばかり。

悪魔王子と呼ばれる旦那様がどんな人なのか、本当にお母様の事件に関わっているのか。
何がどれが真実なのかなんて一つもわからない。

私が求めた真実の先には皆が噂している通りの私利私欲にまみれ、嘘で固められた“呪われた結婚”という事実があるだけなのかもしれない。

私は左手の指輪をじっと見つめる。先程ルーカスに聞こうと思って結局聞けなかったが、私はルーカスの嵌めている指輪について気になったことがあった。

(ルーカスの指輪には……淡いピンク色のダイヤが嵌め込まれていたわね)

(偶然かしら……? 互いの瞳の色みたい)

もうルーカスは眠ってしまったようだ。私から見える大きな背中は規則正しく肩を揺らしている。

(なんだかすぐに眠れそう……)

私はルーカスに対してずっと嫌悪感しかなかった。けれど今、目の前でこんなにも近い距離で眠るルーカスに対して、不思議と嫌悪感も恐怖心も何もない。

(むしろ……なんだかほっとする……?)

もう少し頭の中を整理したかったが、もう意識は眠りの入り口まできてしまったようだ。私はいよいよ重くなった瞼をそっと閉じると、ゆっくりと眠りの底へ向かって意識を手放した。

深い海に沈むように、ゆっくり心地よさに飲まれるように。



「──大切にする」


もう夢の中だろうか。

どこからかルーカスのそんな優しい声が聞こえた気がした。