そして少しの間、沈黙がながれたあと、先に口を開いたのはルーカスだった。

「リリー。ひとつお願いごとがあるんだが」

(お願い?)

私は一呼吸おいてから静かに返事をする。

「ルーカス様、それはどのようなことですの?」

「それだ。俺の名前を気軽に呼んでくれないか。仮にも……妻からそう堅苦しく呼ばれると息がつまりそうだからな」

(敬称を付けずに呼んで欲しいだなんて……悪魔王子のイメージからしたら意外だわ)


「承知致しましたわ」

「そうか。では早速頼む」

「え……っ」

ルーカスはなにやら子供のようにワクワクした目で私を見つめている。

「あの……その、ルーカス……今日からその宜しくお願いします」

「ああ、リリーこちらこそだ」


そう言うとルーカスは満足そうに何度も頷いてから、真上を向いていた身体を私に背を向けるように向きを変えた。

今夜は本当に何もする気がないというルーカスの意思表示なのだろう。

そしてまた静寂の時間が流れ出す。
私は天井を見ながら隣のルーカスについて思いを巡らせる。