「あ、いやそのなんだ。バルコニーでお前に剣を突き付けていたとき、ポケット越しにコイツと一瞬目が合ってな」

「そう、でしたの?」

私は信じられない気持ちでルーカスとラピスの様子を眺める。

(ラピスがこんなに心をゆるすなんて……)

ラピスは暫く気持ちよさそうに目を細めてから、再びルーカスの肩に登るとルーカスの頬をぺろりと舐めた。

「はは、くすぐったいだろう」

「きゅ〜」

ルーカスのくしゃっと笑った笑顔に私は思わず見惚れていた。

(はじめて笑ったわ……)

いつも仏頂面で眉間に皺をよせ、気難しそうな顔をしたルーカスしか見たことなかったから。

そしてほんの一瞬、記憶の片隅の誰かとと目の前のルーカスが重なりそうになる。


(あれ? この笑顔ずっと前にどこかで……?)


「きゅうっ」

ラピスはルーカスの肩から私の肩に乗り移ると、今度は私の頬を舐めた。

まるで大丈夫だと私を安心させるように。



「……疲れているのに無理な提案をして悪かった。俺は椅子で寝るとしよう」

「え?」

私が返事をしないことを拒絶と受け取ったのだろう。ルーカスがベッドサイドから立ち上がる。私は慌てて口を開いた。

「あのルーカス様」

「なんだ?」

「な、何もされないのであれば隣……どうぞ」

「な……っ、いいのか?」

「えぇ。どうぞ……」


私がベッドの左端に移動すれば、ルーカスが遠慮がちにベッドに入って来ると大きな体を横たえた。

ギシッとスプリングが沈む音が聞こえてきて私の鼓動が勝手に駆け足になっていく。