「え!? あの、その困りますわっ」

「何もする気などさらさらない。指一本、髪一本触れない」

「…………」

「なんなら、神にでも悪魔にでも誓っていい。さらには俺のこの命にかけて絶対に何もしないと誓おう!」

(そこまで言われると……なんか逆に私に何の魅力がないみたいに思えてくるじゃない)

(そもそも……ここまでする理由はなに?)

私は唇を固く結んだルーカスをみながら顎に手を当てた。

ルーカスの言っていることにも一理ある。

ただでさえ、悪魔王子と男勝りで熊のような公爵令嬢だと揶揄されている私たちの結婚は、あまりにも劇的だったため、国中が驚きどよめいたのは事実だ。

ルーカスの言う通り初夜も一緒に過ごさないなんて何かあるのでは?なんて噂がたてば、それはそれでややこしい。

平穏な夫婦を装いながら、まずはこの王宮の内部を調べ上げ、いつか必ず犯人を見つけ出すことが私の使命なのだから。

(でも……一緒に寝るなんて。本当になにもされないかしら……)

(だってあの悪魔王子が頭を下げてるのよ。何か陰謀でも隠されているとか?)

(はぁ、どうしましょう、全然わからないわ……)


その時だった──。

「きゅうっ!」

「な……っ」

ラピスが私の髪から飛び出してくると、ルーカスの肩にちょこんと乗っかった。

ルーカスも驚いたのだろう。切れ長の目を丸く見開いている。

「え、ラピス?!」

「きゅきゅう〜」

ラピスはとても警戒心が強い。未だにドーナやお父様でさえも身体に触れることを嫌い、知らない人の肩に自ら乗る姿など、私は一度も見たことがなかった。

「何してるの、こっちにおいで」

「きゅうきゅうっ」

ラピスは私の手招きにも応じず、ルーカスの肩から膝の上に降りると、ルーカスを小さな(まなこ)でじっと見つめた。

「ふっ、久しぶりだな」

「え? ルーカス様?」

ルーカスはラピスの額を指先でくすぐるように掻いた。