※※

──お母様っ!!!

いつもの夢だ。
そういつもの夢。それでも私は夢の中で必死に母の名前を呼んでいた。

十年前のあの日、私が母のところに向かう不審な男に向かってなにか声をかけていれば、母は命を奪われなかったかもしれない。

(私に力があれば)

(私が強かったら)

だから私はあの日以来、剣の稽古を始めた。

あの男を絶対に許さない。
絶対に探し出してこの手で殺して見せる。
母の仇をとって見せる。

私は夢の中で固く拳を握ると、海の底から浮上してするように意識を覚醒させていく。


「──きゅうっ!」

私はラピスの声とペロリと舐められた頬の触感と共に涙が滲んだ瞼をそっと開く。

「……ラピス、おはよう。私またうなされてたのね」

「きゅうー……」

「心配しなくても大丈夫よ」

私は荒くなっている呼吸を鎮めるように深呼吸を繰り返しながらラピスを胸に抱きかかえた。


「いつか私が必ずお母様の仇をとるわ……」


──コンコンコンッ

「リリーお嬢様、お目覚めでしょうか」

扉の向こうから聞こえてきたのは、長らく私のメイドとして仕えてくれているドーナだ。

「入っていいわよ、ドーナ」

「失礼致します」

部屋に入ってきたドーナはいつものように長い赤髪を一つに束ねており、私に斜め四十五度にお辞儀をすると窓のカーテンを次々と開けていく。

「きゅうっ」

ドーナの姿をみたラピスがすぐに駆け寄っていく。

「いつものですね。さぁ、召し上がれ」

ドーナはふふっと笑みをこぼしながら、ニンジンとキャベツを細切れにしたものが入った皿をことんと置く。すぐにラピスが美味しそうにそれらを口に含むと咀嚼を始めた。

「お嬢様の朝食もご用意が整っております」

「ありがとう」

ドーナは今年二十六の若さで当家のメイド長として働いており、私とは十年の付き合いになる。

母が亡くなってから、騎士団長を務める父は不在がちなこともあり、私の世話係として知り合いの子爵家から紹介してもらったと聞いている。