聞き覚えのある声と共にはっきりと視界に捉えたその顔に、私は声も出せずに目を見張った。

ベッドで剣を握りしめている私をのぞき込んだのはまぎれもなく私の夫となったルーカスだったから。

「る、ルーカス様?!」

「そんなに驚いた顔をされるとは心外だな……」

「な、何の用ですの?」

私の言葉にルーカスがバツが悪そうに頬を掻いた。

「そ、そのなんだ……今日は初夜だと思ってな」

「初夜?!」

私は大きな声で復唱してから、思わず口元を手で覆った。

(すすす、すっかり忘れてたわ……)

(初夜する気があったの?!)

そしてすぐに色々な疑問や不満も湧いてくる。

(あ、あんなに私のこと無下に扱っておきながら?)

(キスするのも嫌がった癖に?)

(もしかして、初夜なら暗くて顔がわからないからちょうどいいとか?!)

(うぅ〜〜、厚かましいにもほどがあるわっ!!)


私はそう結論づけるとルーカスをキッと睨みつけた。

「致しませんわ」

「な……っ」

「わたくしたちは契約結婚ですもの。初夜も偽装すればよいでしょう!?」

語気を強めてそう言えばルーカスが眉間に眉を寄せた。

(な、なに怒るの?!)

恐ろしいほどの形相をしていたが、ルーカス
何もいわずしばし口を噤んだ。そして何か思案している様子を見せてから、私の目を真っすぐに見つめた。

「お、お前に嫌われているのは重々承知している……だが初夜を別々に過ごせば王宮で良からぬ噂がたつやもしれん」

「それは……」

「この通りだ。今夜だけ一緒に眠らせてもらえることはできないか?」

そう言うとルーカスは上質な白いシャツを羽織った上半身を折りたたむようにして、頭を下げた。