「婚約の誓約書をご返信する際に、お嬢様がナッツアレルギーだと記載したはずですのにナッツを食べさせようとするなんて……」

「じゃあドーナがここに食事を運ぶ際に私の目に触れないようナッツだけポケットに?」

「えぇ、さようでございます。こんな嫌がらせをするなんてさすが悪魔王子ですわ」

「そうだったのね。それを聞くと先が思いやられるわ」

「でもご安心を。今後もわたくし、食事については毒見したうえでお嬢様にお持ち致しますので。またナッツについては筆頭執事のカイル様に直訴しておきますわ」

そんなドーナの言葉を聞きながら、私はふとあることが閃く。

「待って、ナッツはこれからも用意もらってくれる?」 

「お嬢様?」

「だってナッツはラピスの大好物だもの。野菜や果物は私の食事から分けるとして、こんな良質なナッツはなかなか手に入らないし、逆に好都合だわ」

「さすがお嬢様ですわ!!」

ドーナは拍手をして見せると、うっとりと私に羨望の眼差しを向けてから微笑んだ。

「それでは早速、明日からもナッツをお出しするよう料理長に掛け合って参ります。お嬢様もお食事を終えられましたら、今夜はごゆっくりお休みになられてください」

「えぇ、ドーナもね。また明日」

「はい、失礼致します」

ドーナは私に向かって丁寧にお辞儀をしてからそそくさと部屋から出て行った。