「ルーカス様。神父様が困ってらっしゃいますわ」

「それがどうした?」

(息を止めるのよリリー)

(ちょっと獰猛な犬に嚙まれるのと一緒)


私はルーカスの腕にそっと左手を添えた。そして右手をルーカスの頬に伸ばす。

「な、何をする……っ」

「誓うのですわ、私たちの愛を」

私はそう言うと、ルーカスの唇に自分の唇をそっと押し当てた。

神父がワンテンポ遅れて拍手をすれば、会場全体から拍手が沸き起こる。


(はぁ、なんとかなったわ)

私は拍手の音を聞きながらルーカスから唇を離した。

(あとで綺麗に拭かなきゃ……)


「……う、これは何が起こったのだ……」

私からのキスに余程驚いたのか、嫌すぎたのか放心状態に見えるルーカスを引きづるようにして私は会場をあとにする。

「ちょっとしっかりしてくださいませ、退場しますわよっ」

「ああ……」

そして扉の向こう側へと辿り着き、扉が閉められたのを見ながら、私が深い深いため息を吐き出したことは言うまでもない。この時の私にとって生きてきて最も幸せどころか、怒りに震える屈辱的な日となったから。


これがのちに後世まで語り継がれることになった私とルーカスの”呪われた結婚”のはじまりである。

ただ、この時私は知らなかったの。

一年後、この結婚式の日のことを思い出しルーカスと笑い合ってるなんて。抱きしめあって眠り、互いを尊重しながら慈しみあっているなんて。

そう、これは”呪われた結婚”のはじまりなんかではなく、愛され愛するための”幸せな結婚”だったのだから。